この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】

信じていたい?

「アーベルが視た、未来……?」


 オウム返しだった。この小屋にいる状況も、ローデリヒ様が話してくれているこの流れも全くついて行けていない。
 しかし、未来のアーベルが来た日。私は聞いていた。


 ――「実は――、間違っちゃったんです。移動するはずだった日を」


 つまり、アーベルは何らかの目的を持って過去に移動をしようしていた、という事になる。その目的が、何なのかは分からないけれど。

 ローデリヒ様がわざわざアーベルが視た未来(・・・・・・・・・)と言った。私の知らないところで、アーベルがローデリヒ様にこの襲撃が起こることを予言していたという事にならないか――?

 理解した途端、私の奥底から湧き上がってくる。とても熱いものが。落ち着かないといけないのに、止められなくて、止まらないもの。
 勢いのまま、アーベルを抱くローデリヒ様の袖を掴む。


「どうした?」


 不思議そうな彼の表情に、私は開きかけた口を噤んだ。
 違う。今はこんなことを言っても、仕方がない――と、やや冷静になった。

 小さく息を吐く。心の中に燻った熱を逃すように。
 私の中で渦巻いているのは、紛れもない。

 怒り、だった。

 ゆっくりと袖から手を離す。
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