この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
「……なんでもないです。アーベルの視た未来(・・・・・・・・・)って一体なんですか?」

「私も詳しくは知らない。未来を事細かに知らせる事は、未来を変えてしまう危険性があるから」

「未来を変えてしまう……」

「簡単に例えると、死ぬはずがなかった人が死んでしまうことも、生まれるはずだった命が生まれない事になってしまう可能性があるという事だな。逆も然りだ」


 つまり、アーベルが居た未来は大きく変わってしまう――というか、存在しない未来になってしまうという事になるってこと?


「それだけじゃない。アーベルは時空を行き来出来る能力(・・・・・・・・・・・)には、過去、あるいは未来の己との入れ替わりと滞在時間は1日、魔力の大幅な消費の3つの制約を話していた。しかし、制約は3つだけ(・・)とは言っていない」

 16歳の姿のアーベルを思い浮かべる。
 目の前に立つローデリヒ様にそっくりで、まだ少し幼さの残した顔立ち。
 彼は大したことのないように話していたけれど、気付いてしまった。

 いや、本当はもっと早く気付いてあげないといけなかった。


「過去を変えるのは、現在(いま)の自分を消滅してしまうリスクを、
 未来の自分と入れ替わって、未来を知り、現在を変えるのは、生きていたはずの未来の自分を消滅してしまうリスクを、常に孕んでいるという事だ」


 あの時のアーベルは、命懸けだったという事を。
 ローデリヒ様が眉を寄せた。
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