この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
「危険人物って誰ですか?」


 離宮行きに連れてくるのをやめた、という事は離宮行きに連れて来るくらい私達の身近にいる人間だ。記憶の中ではそんな人間はいなかったはず。私の能力が発動している時も、だ。

 ローデリヒ様の目が揺れる。馬車の中で見た、どう受け止めていいか分からないような表情。
 伝わってくる感情は、迷子の子供のように途方に暮れていた。

 彼のアーベルを抱く手に僅かに力がこもった。キュッと唇を一瞬引き結んで、彼の中で折り合いを付けたのだろう。迷いを振り払うように一言。


「エーレンフリートだ」

「…………えっ?」


 ローデリヒ様の言葉が飲み込めなかった。

 近衛騎士団長。王族の親戚であるヴォイルシュ公爵家の末子。
 ローデリヒ様と歳が近い人だったはず。

 ちなみに私はあんまり絡みがないんだよね。一応親戚なので嫁いできた最初の方に挨拶したり、あとは護衛してもらったくらいかな。
 ローデリヒ様もイケメンなんだけど、エーレンフリート様はまた違ったタイプのイケメン。優しげな感じだ。
< 549 / 654 >

この作品をシェア

pagetop