この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】

重症?

 沈黙が続く。
 え、どうしよう。この状況どうすればいい?
 ローデリヒ様なんでナチュラルに誘ってきたの?
 そしてなんで私はナチュラルに頷いてるの?

 きっと深く考えてなかったんだよね?!私も考えてなかった!!

 私とローデリヒ様が少しも動けず固まっていたが、幼児はそんな事お構い無しである。 わたしの服を引っ張っていたアーベルが、今度はローデリヒ様の腰に巻いたタオルに手を伸ばした。


「待て、アーベル。引っ張るな。頼むから」


 ぐいぐいとタオルを力任せに引っ張るアーベル。ローデリヒ様は焦ったようにタオルを掴む。結構際どいところまで見えそうになってるけど、咄嗟に手で顔を覆ったので私は見ていない。まだ見ていない。


「私は見ていませんから!」

「……いや、指の隙間広すぎないか?」


 冷静に突っ込みつつ、ローデリヒ様はアーベルの手を離させて抱き抱えた。勿論しっかりと腰のタオルは巻き直している。
 仕切り直すかのように一呼吸おいた後、ローデリヒ様はおもむろに切り出した。


「その……、風呂に誘ったのはだな……」

「は、はい?!」


 私の声が裏返った。ローデリヒ様がまたしばしの間黙り込む。沈黙が落ち着かなくてソワソワしていると、彼は珍しく私から気まずそうに目線を逸らした。いつもは真っ直ぐガン見してくるのに。
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