この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
「その、……特に他意はない」

「えっ?あっ、はい!」


 何も考えずに言ったんだろうな、と私には伝わっていたけれど、堂々と改めて宣言したローデリヒ様の顔は僅かに上気していた。

 あれ?この人もう既に逆上せているんじゃ……?


「ローデリヒ様?実は結構長い間お風呂入ってました?」

「どうした?風呂は入ったばかりだが?」

「いや、なんか……逆上せてるように見えて……。顔赤いですよ?水でも飲みます?」

「特に逆上せて等いないが……、飲もう」


 否定しつつも、ローデリヒ様はアーベルを連れて洗面所から出て、テーブルの上の水差しからカップに注ぐ。慣れた手付きでアーベルにも飲ませながら、ローデリヒ様は口を開く。


「逆上せたように見えたのなら、それは自分自身の言動を恥じただけだ」

「恥じた?」

 オウム返しのように問うと、アーベルに水を飲ませた彼は、自分のカップに口を付けた。透明なカップの中の水が大きく揺れる。
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