この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
「わたくし、転移魔法が得意なのよ。それこそローデリヒ殿下よりもずっと、ね」

 チラリ、とハイデマリー様が同意を求めるようにローデリヒ様を見る。そうだ、とローデリヒ様は不本意そうに頷いた。

「じゃあ、ハイデマリー様は王城から転移でここまで……?」
「ええ、そうよ。反乱が起こってすぐに脱出してきたわ。ちょうど貴女達もこの街に到着したと聞いていたからここまで一気に飛んだのよ」
「そうだったんですか……」

 一瞬の間、沈黙が降りた。

「……ちょうど?」

 思わずスルーしそうになった私の違和感に答えたのは、ハイデマリー様ではなく、ローデリヒ様だった。やや言いにくそうに目線を斜め下に逸らしている。

「ハイデマリー殿は、本当は昨日からこの街にいたのだが……、その、迷子……ではなく、迷われていたらしくてな……。不審者として警備兵に捕まっていたので、朝から詰所まで迎えに行っていた」
「捕まっていた?!」

 ギョッとした私。ハイデマリー様はやや低い声で口を尖らせる。

「本当に失礼よね。わたくしのどこが怪しいと言うの?」

 その赤くて派手なドレスとか、華美な装飾品だよ、なんて言える訳がない。適当に笑って誤魔化しておいた。

「逆に街中で噂になっていたから、逆に私が知ることが出来たのだが……。ちなみに私達の事もそこそこ広がっているようだ」

 当たり前だ。こっちの世界でもドレス姿の女性なんて、滅多に街中で歩いてはいない。時々歩いているけれど、お貴族様ばかりだ。首都キルシュはそんな噂になるまでもない頻度で出くわすが、ココシュカの方はそうではないみたい。
< 599 / 654 >

この作品をシェア

pagetop