この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
 部屋の扉から共有廊下に出るか、部屋のベッド側の窓から外に出るか。ベッド側の窓は人間が出られるだけのサイズはあるけれど……、む、無理だ。丈の長いドレス姿で出来る気がしない。
 速攻で却下して、やっぱり部屋の出入口から抜けるしかないよなあ、と結論付けた。

 部屋の前が騒がしいのがこちらにも聞こえてくる。
 離宮への道中を襲った事といい、ココシュカの街まで来た事といい、随分としつこい。そして、そこそこ規模のある集団。エーレンフリート様が反乱を起こした事を考えると、キルシュライト王国の王族狙いの可能性が高い。

 ……となると、国王様は勿論、王太子のローデリヒ様、直系のアーベルが一番狙われている可能性が高い。そして、お腹の子供も。

 結界が破られたらしい。私の頭の中に沢山の人の声が伝わってくる。現実に響く罵声と共に。
 一気に頭の中に流れ込んできて、脳が処理しきれずに貧血を起こしたみたいにクラリ、と平衡感覚を失った。必死に足を踏ん張って堪える。

 ハイデマリー様が必死で食い止めているのだろう。侵入者達の声が呻き声と、恐怖の悲鳴に変わっているから。

 でも、心の声が聞こえるから、分かってしまうのだ。
 ハイデマリー様が相当無理をして、ここを防衛している事を。
 ハイデマリー様の能力に、反動が大きい事を。
 そして、もう少しで彼女が動けなくなる事を。
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