この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
「いや、考えちゃダメだ。ホラーの方向に考えちゃダメだ……」

 ぞわぁっと鳥肌が立ってるけれども。
 抱き締めていたアーベルは、いつの間にか静かになっていた。疲れたようだった。私の肩に頭を預けて、ウトウトしている。
 背中をトントンとあやしながらなんとか出れないものか……、と鉄格子を観察するけれど、南京錠みたいな物が付いているだけ。

「……取れ?そう?」

 だいぶ古そうな南京錠を片手で掴む。
 よくよく見ると鍵穴もツルの部分も錆びている。どうやってこれ施錠したんだろ……?錆びすぎて動かなくない?破壊するしかない?

 ……というかまず、私達ってどうやってこの中に入ったんだろう?謎だ……。

「ずっと会いたかった、と言うべきか?」

 いきなり頭上から声がして、心臓が止まるかと思った。大きく目を見開いて、音がするくらい勢い良く上を向く。
 ローブを身にまとった人が、いつの間にか目の前に立っていた。低く、落ち着いた声からして男の人。

「もっとも、お前は俺の事等知らないだろうがな」

 ゆっくりと被っていたフードを外した下の顔は、確かに会ったことのない顔だった。
 会ったことは、なかったけれど。

「……いいえ、知っています。貴方の事」
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