この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
 天井の隅を指さす。アーベルは私の言った通りの場所に短剣を投げつけた。その刃は真っ直ぐ狙った場所に飛んで行き、天井に突き刺さる。光の矢と一緒に。

「…………ん?光の矢……?」

 ボトリ、と天井の影から人が落ちてくる。アーベルの放った短剣はそのまま天井に刺さっていたが、光の矢は正確に標的を射抜いたようだった。姿を見せたカレルヴォの右胸を貫通している。

「アリサッ!!アーベルッ!!」
「ローデリヒ様?!」

 ローデリヒ様の声が牢屋内に響く。明かりに照らされて、弓を持ったままのローデリヒ様が、私達の方へと駆け寄ってきていた。廊下が長いのか少し距離は離れている。ローデリヒ様は険しい顔のまま、私達の方に向かって弓の弦に手をかけた。

 走りながら。

「え、ちょ……」

 光の矢が瞬時に生成される。
 私は顔を青くした。モロ照準こちらなんですが……?!私の焦りなど知らないローデリヒ様は、思いっきり引き絞った弦から手を離した。

 空を切る音が近くでする。それと同時に私達の周りで幾つかの呻き声と共に、人が倒れた。

「え……」

 唖然としながら周囲を見渡すと、倒れた人達の体には何本もの光の矢が刺さっている。

 1回しか弓の弦を引いていないのにこんなに本数が、とか。走りながら弓引いてたのに、ちゃんと私とアーベル避けてるの神業過ぎる、とか。

「……父様。どうして影を射抜けたのですか?」
「絶対貫通を付与しただけだ」

 アーベルと近寄ってきたローデリヒ様の話が全く分からない、2人してチート過ぎるとかあるけれど。

「それより2人とも怪我は――アリサ?」
「母様?」
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