この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
「……失敗、したらどうしようってずっと考えていて、でも、過去が変わってしまうから、誰にも話せなくて」
「ああ。背負わせてしまったな」
「だから、父様と母様が無事で良かったです……!」

 雑に服の袖で涙を拭ったアーベルを見て、私はソファーから腰を上げた。そして、アーベルの隣に移動して、思いっきり抱き着く。

「よく頑張りました!!」
「母様?!」

 私の行動にアーベルは目を丸くする。

「私からも、アーベル。助けてくれてありがとう」

 ローデリヒ様によく似ているけれど、ローデリヒ様よりも表情豊かなアーベルは、少しだけ照れくさそうに微笑んだ。

「はい」

 本当にアーベルをカレルヴォに取られた時は、もう駄目かと思ったんだよね。だから、16歳のアーベル登場のタイミングは間一髪だった。非常事態だったっていうのは分かっている。分かっているけれど……。

「アーベル。ひ、人は、なるべく刺さないようにね……」
「いえ、いつもはそんなに刺していませんが……」
「そんなにって何?!」

 説教……とまではいかなくても、私の注意に何故かちょっと引き気味に答えられた。未来のアーベルが何をしているのか、今から心配なんですが……。

「……これからのアーベルの教育方針には沢山口挟ませてもらおう」

 アーベルに抱き着きながら、私はボソッと呟いた。ローデリヒ様はアーベルを挟んで隣に座る。少し考え込むような素振りを見せたローデリヒ様は、アーベルに訊く。

「最善の選択ではなくとも、アーベルが変えたくない未来、か。
 ――つまり未来の私達は、幸せだということだろう?」

 魔法の制約か、未来を変えたくなかったからか、アーベルは問いには答えなかった。
 でも、嬉しそうに笑った年相応の無邪気な表情が、全てを物語っていた。
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