この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】

王太子夫妻がやってくる。(他)

「やっと会えるわ。わたくし、凄く楽しみにしていたの」


 飴玉を転がしたような甘い声。まだ年端もいかないような見た目の少女は囁いた。

 アルヴォネン王国の王都から離れた森の中。キルシュライト王国への国境付近をその一行は進んでいた。
 カタンカタン、と規則正しい軽快な音を立てて馬車は走る。見た目も豪華な馬車だが、大勢の護衛達がその馬車を取り囲んでいる所からして――ただの貴族の行進ではなかった。

 馬車の中の少女は、ベルベット生地の柔らかいクッションにしどけなく座っていた。

 煌めく銀髪は宝石と共に複雑な形に結われている。髪と同色のまつ毛は長く、薄氷色の瞳はうっとりと細められていた。


「僕だって楽しみにしていたんだ。なにもティーナだけじゃない」


 妖精のような見た目の少女に、向かいに座る青年は頷いた。夜の闇を切り取った黒髪は項でひとつに括っている。アメジストのような瞳は、少年のようにキラキラと輝いていた。
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