この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
「んもう、わたくしの方が楽しみにしていたんですもの!」


 頬を膨らませた少女は白魚のような華奢な手で、手元の遠眼鏡を弄り倒す。複雑な模様と金箔が押された遠眼鏡を、カチカチと伸ばしたり縮めたりしている少女に青年は問い掛ける。


「〝彼女〟の姿は未だに見えないのかい?」

「ええ。全く見えませんの」


 キルシュライト王国首都キルシュ――そちらのある方角へと少女は遠眼鏡を向けてみる。いつもと変わらず、王都が映るのみで王城は遠眼鏡に映らなかった。

 少女も期待していなかったようで、アッサリ目を離して遠眼鏡を縮める。手持ち無沙汰だったので、暇潰しに弄っているような雰囲気だった。


「やはり、特殊な結界をどうにかしなければいけないみたいだね」

「本当に面倒臭い結界ですわね」


 ほんの少し苛立たしげに少女は眉を寄せる。青年は苦笑を浮かべた。
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