この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
「流石、キルシュライト王国ってとこかな。大国の王城の警備が甘いだなんて思っていないけど、確かに面倒臭いよね」

「でも、ルーカス?わたくし達はここで諦めてはいけないわ?」

「勿論だよ」


 クスリと上品に微笑んだ青年の隣へ、少女はニコリと笑い返して座る。そしてそのまま青年へとしなだれかかった。


「キルシュライトの王太子が〝彼女〟に求婚するなんて、誰も夢にも思わなかったのよ。わたくし達の邪魔をしないで欲しかったわ」

「〝彼女〟自身魅力的だけれど、何よりその能力も傾国の美女に相応しいものじゃないか。キルシュライトの王太子が惑わされるのも無理はないよ」

「ええ。そうだわ」


 妖精のような見た目で、婀娜っぽい表情を見せる少女。少女の無言の誘いに釣られて、青年は少女を自身へと引き寄せる。


「二年だ……二年以上掛かった。やっとこれで一歩目だよ。ティーナ」

「ええ。やっとここまで来たわ」


 しみじみと呟いた青年は、少女の頬に唇を寄せてキスを一つ落とす。
 規則正しい音を立てて、少女と青年を乗せた馬車は目的の場所へと向かっていた――。



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