桝田くんは痛みを知らない
「連絡先。教えろよ」

「あ、うん」


 ポケットから、携帯を取り出す。

 わたしの携帯に桝田くんの名前が登録されたのを見て、頬が緩んだ。


「迎えに行くから、教室にいろ」

「え!?」

「文句あんの?」

「そんなことしたら、大騒ぎになるよ……?」

「へえ。騒がれたら困るわけだ?」

「…………困らない、です」

「逃げんなよ?」

「逃げないよ……! あ、でも」

「でも?」

「学園祭の準備、始まるから。しばらく残るよ?」

「どんくらい?」

「まだわからないけど。1時間とか。それ以上、かかっちゃうかも」

「了解」


 桝田くんは、残らないのかな。

 きっと残らないよね。


「先に、帰る……?」


 残念。

 放課後も、話したかったな。


「待ってるに決まってんだろ」


 …………!


「いいの?」

「おう」

「ありがとう!」

「あー……。古都」

「ん?」

「もっかいだけ。させて」


 そういうと、桝田くんの唇が


「いっかいだけじゃ。ないの?」

「うっせ」


 何度も、わたしに、触れた。
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