桝田くんは痛みを知らない
「遅かったのね」


 玄関の扉をあけると、キッチンからやってきたお母さんに、そう言われた。


 一瞬ドキリとしたけれど、


「学園祭の準備が始まったから。しばらく、この時間が多くなるかも」


 そう説明すると納得してもらえた。


 お風呂に入り、ご飯を食べ、自室にやってくる。


 課題をしながら考えてしまうのは――


『まだ一緒にいたいって言ったら。どーする?』


 あの言葉。


「わたしだって。もっと、一緒にいたいよ」


 はあ。

 どうして、こんなに……。


「すき、だなあ」


 桝田くんのこと思い出すと、ドキドキする。

 桝田くんのことが、大好きだ。


 こんなに好きになるなんて。

 自分でも信じられないけど。


 たしかに、わたしは彼に恋をしている。
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