桝田くんは痛みを知らない
「ちなみに。この手袋は、せめてもの抵抗」


 と、ヨシヒサくんが黒い手袋をはめた手を顔の前でパーにする。


「手相は誤魔化せても、握手は求められてしねーと。さすがに感じわりいだろ」


 塩対応なのに、そういうところ優しいのがズルい。


「……うん」

「素手では触れてないから。許せ」

「許、す」


 このひとは、どこまでわたしをドキドキさせれば気が済むんだろう。


「やっと外せる」


 手袋を外し、

 衣装を口元からずらしたヨシヒサくんが――


「とりあえず。元気回復させて」


 わたしの手を取り、唇を重ねたあと。


「残り僅かではあるが。まわるか」

「……ほんと?」

「オマエんとこのお化け屋敷。まだやってるんだろうな?」

「たぶん」

「もらいにいくか。クッソだせえバッジ」

「へ?」

「行くんだろ。“夏の遊園地”」
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