桝田くんは痛みを知らない
「あ……、ごめん。喉、かわいたよね」


 声が、出た。


「迷子にでもなったかと思ったわ」

「さ、さすがに。ここで迷子にはならないよ」

「部屋番号。覚えてるか?」


 …………わからない。


 頭が、真っ白になって。

 わからない。


「……っ」


 マサオミくんが、女の子といるの、いやで。

 なにも考えられない。


「いっこ持て」


 …………え?


「行くぞ」


 グラスを渡されて。

 反対の手を、ギュッと、握られる。


「ま、桝田くん」

「なに」

「痛い」

「知らね」


 手を引っ張られ、部屋まで戻ってくると。

 手を離され、グラスを手から奪われた。
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