芦名くんの隠しごと



「──俺のことを、狙ってきたのか」


威圧感が加わったその声を聞いて、私は怯えることしかできない。


早く逃げなきゃ、と思うたびに、足は床にくっつけられていて。


姿も見えないのに、相手が只者じゃないことが伝わってきた。


……なのになんでだろう。この声を聞くのは、はじめてじゃない気がする。


「……安心しろ、手加減はしてやる」


──怖い。


動けない。


ああ、プリント取ってすぐに帰ればよかった。


そんな後悔が募って。


「……っ、」


声にならない声で、その場に泣き崩れた。


もうやだ。怖い。


ちゃんと電気つければよかった。


ちゃんとすぐに帰ればよかった。


そもそもプリント忘れなければよかった。


「──女?」


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