嘘つきの水槽
「…忙しいって聞いたけど」


後ろから聞き慣れた、濁りのない声がした。


私は思わず立ち上がる。


「陵ちゃん…」


なんで?


親友だから?


あぁ、こんなことなら鍵をかけておけばよかった。


「お母さんに事情話して入れてもらった」


陵ちゃんはドアをゆっくり閉める。


「なんで俺のこと避けてんの?」


「避けてないって」


「じゃあなんでありもしない委員会で学校先に行ってんの?」


「……っ」


「あの日約束破ったのは悪かったし、謝る。ごめん。でもお前そんなので何日も腹立てるほど心狭くないだろ」


陵ちゃんは困ったような顔で私を見る。


…陵ちゃん、私本当は心狭いんだよ。


いつのまにか身長が伸びて、声が低くなって、私のことを倉橋って呼び始めた陵ちゃんが女の子と一緒にいると、胸が痛くなるんだよ。


私は陵ちゃんの親友だと思えば思うほど、嘘が多くなって、私の中の嘘の水槽がいっぱいになっていく。


もし、嘘が溢れてしまったら、私はもう自分の想いを抑えられる自信がない。


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