旦那を守るのも楽じゃありません
守備範囲が広すぎます

「お、お兄様?」

「なんだ?」

「再確認なのですが、ジャレンティア王女殿下は御年…26才でしたよね?」

ミケランティス兄様の目が吊り上がった。

「そうだな…もう27才になったそうだぞ」

「27才…あの、カイトレンデス殿下って…確かもうすぐ20才の今は19才でしたよね?」

「そうだな…」

ミケ兄様が深い溜め息をついた。

今の段階で8才下の王太子殿下を…狙っているのかな?いや、狙っているのはむこうの国王陛下か。

そもそもカイト殿下はこの事ご存じなんだろうか?執務室にカイト殿下の魔力は感じないから、まだ王宮内にいらっしゃるのかな…と思っていたら執務室のある棟の向こうの中庭からカイト殿下と複数人の魔力が近づいて来る。

そして、執務室のドアが開けられカイト殿下と宰相と…あれ?アザミのお父様の大元帥閣下(強面)がいらっしゃった。

「あら?」

アザミも大元帥がいらっしゃることを知らなかったみたいで、目を丸くしている。

「皆、おはよう。もう知っていると思うが…」

カイト殿下は言い淀んだ。そりゃ淀むよね…

「殿下、まだ向こうの国王が話題に出しただけで正式な打診もありませんし…」

宰相がそう言うとカイトレンデス殿下は、ちょっと声を張り上げた。

「だったら…もし正式な打診があったらどうするのだ?!断れるのか?無理だろう…私は御免だ…皆がどうしても、と言うのならキースに王太子は譲って私は王籍を離れる」

「で、殿下!?」

キースとは…キースレンデス第二王子殿下のことで、まだ13才の去年成人したばかりのカイト殿下の弟御だ。

「ですがカイト殿下、もしキース様に譲ったとしても今度はキース様があの王女と…」

私がそう言うとカイト殿下はハッとして顔色を変えた。そう、一回り以上離れていようが押し付けてくる可能性もある。カイト殿下は頭を抱えた。

「殿下…」

アザミのお父様、大元帥閣下がボソッとカイト殿下に声をかけた。

カイト殿下は意を決したように前を向くと、アザミの前で膝を突いた。

「アザミ=シンクサーバ嬢、どうか私と結婚して下さい!」

あら?

これ…あ!これがクラナちゃんが言ってた膝を突いてのプロポーズね。

えっプロポーズ!?

プロポーズを受けたアザミはキョトンとして大元帥閣下を見た。

「お父様…どうしましょう」

まあ、そういう反応になるよね。

アザミのお父様の大元帥閣下は静かにアザミに語りかけた。

「アザミの意思を尊重する。本来なら王太子殿下から婚姻の打診があれば、我々臣下は受け入れる。アザミもいずれは何処かへ嫁ぐ、はっきり言うと家の為に嫁ぐ、分かるな」

アザミは小さく頷いた。

カイトレンデス殿下はアザミに向かって手を差し出した。

「アザミ、貴方に考える時間をあげられない私を許して欲しい。理由はあの王女から逃れる為だか、それも含めて貴方に王太子妃、後の国王妃の責を負わせることになる」

アザミは目をさまよわせて、私を見た。私?

「ミルフィは…ミルフィーナは今、幸せですの?」

アザミが私を見た。その目はもうすでに決断していて、私の、後一押しが欲しいのだと気が付いた。

責任重大だ。だか、アザミなら出来る。それに私とジークレイがいる。共に背負う…そんな覚悟を込めてアザミを見詰め返した。

「ええ、幸せよ」

このやり取りを後で聞いたジークが

「俺も幸せです!って格好良く決めたかった!」

とか訳の分からないことで私に嫉妬していた。何だかな……

アザミは私の言葉に押されたのかは分からないが、結婚を了承した。アザミの了承を得るとカイトレンデス殿下と宰相と大元帥閣下は一気に動き出した。

今日中に二人の婚約発表を済ませたい!と鼻息が荒かった。

夕方には城内にカイトレンデス殿下とアザミが結婚!の一報が伝えられた。

ところが皆がお祝いムードになるかと思いきや一部の女子達から猛烈な反発があった。

「アザミ様がカイトレンデス殿下とですって〜!?納得いきませんわ!」

熱烈なアザミファンのお嬢様方だった。

アザミ本人に言わないで何故か私を裏庭に連れ出して

「氷華王子のミケ様ならいざ知らず、よりにもよってジークレイ様の影に隠れがちなカイトレンデス殿下ですってぇ?」

「あんな地味な…失礼、大人しい王太子殿下と咲き誇る紫の薔薇のアザミ様が釣り合いますでしょうか!?」

と、10人くらいのメイドと貴族のお嬢様に言い募られた。

氷華王子とか紫の薔薇とか色々ツッコミどころはあるけれど、とりあえず早く帰って夕食の準備がしたい…

「仕方ないだろう?殿下がアザミが良いっておっしゃったし、アザミも了承したんだぞ」

裏庭の木々が揺れ、私の旦那のジークが現れた。ジークを見た途端、女子達は色めき立った。

「ジークレイ様!?」

「本物よ!?素敵!」

ジークはお美しい微笑を浮かべながら私達に近づいて来ると

「アザミだって受けた以上覚悟を持って王太子妃になるんだから、皆が応援してあげなきゃ頑張れないよ?」

と、私の横に立って更に微笑んで見せた。ゴミを生み出す男のくせに…

お嬢様方はその微笑みを受けて皆、顔を真っ赤にした。

「そ、そうよね?私達がアザミ様の幸せを応援しなくて誰が致しますの?」

「アザミ様の幸せが私達の幸せですものね!」

お嬢様方が口々に言い出して、勝手にアザミの幸せを見守る会の会長夫妻にジークと私が任命され、満足したのかお嬢様方はさっさと帰って行ってしまった。

嵐が去った。

ジークと顔を見合わせて笑いあった。ジークが手を差し出して来たので、私も自然に手を出した。手を繋いでジークと裏庭から出て歩いていると、ジークが、あ!と何かを思い出したのか立ち止まった。

「暫く泊まり勤務で家に帰れないかも、ごめん」

おや、早速、夫婦の出退勤の確認ね。

「ご心配せずとも、私もですよ。アザミの護衛です」

「護衛?アザミも結構強い方だよな?」

「強い…と言っても肉弾戦には、ですよ?もし複数人の術師に禁術の呪いなどを仕掛けられたらアザミだって手こずりますし、未来の国王妃を危険な目に合わせる訳には参りませんから」

そういえばジークはまだ警戒しているのかしら…と思いながら聞くのを忘れてその後、事務所に戻って仕事を再開した。

しかしこの騒動が治まるまで忙しいわね…あ、そうだった!

今晩から王宮に寝泊まりすることになったので、許可を頂いて家の片づけ(保存箱の生ものなど)だけでもしようと仕事が一段落した夜に、自宅に向かった。

すると家に向かう少し薄暗い通りで若い男性が一人立っていた。

どこかで見たことのある……あれは…私は足を止めた。若い男性もこちらに向き直った。その男性はパサッと被っていたフードを下した。ジークと同い年くらいか、ワイルドな感じの中々の男前だ。嫌な気は感じない、でも…

「あなたブーエン王国の方よね?」

私はブーエン語で話しかけた。そう、以前襲われた時に、使い魔で追いかけて見た映像に映っていたブーエン王国の若い男…その人だ。

「やはりあの時…追尾していた術者ですか」

その彼は流暢なパッケトリア語で返してきた。戦意は無いことはわかる…だが油断は禁物だ。

「パッケトリア最強の盾…噂以上ですね。強固で崩れない。大丈夫ですよ、今日は争いに来たのではありませんので…」

男性は私の後ろに声をかけた。

え?っと思って後ろを見ると憤怒の表情をした。ジークが立っていた。
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