旦那を守るのも楽じゃありません
義実家へ突撃

今は辛うじて、旦那だから『碌でもない大人』のカテゴリーからは外してあげようかな…と思ってジークレイの顔を見ると、あきらかに不貞腐れていた。

「ぼっちゃま、旦那様が本日は侯爵家にミルフィーナ様を伴って帰るようにとの事で御座います」

あらこれは、旦那の実家に嫁が挨拶に向かうアレね?これは緊張しちゃうわ。私、ホイッスガンデ侯爵夫妻とは夜会でご挨拶程度しかお話したことないのよね。

私は市場で買ってきた食材等を家に入れて片付けてから、ジークと共に侯爵家の紋章の入った馬車に揺られて侯爵家の門をくぐった。

ふわ~っ大きなお屋敷ね。流石ホイッスガンデ家。

ジークと共に馬車から降り立つと、ずらりとメイドと侍従らしき人が待ち構えていた。怖い系の魔力がバシバシ私に当たってくる。

微笑みながら周りを見ると、目が合うメイドが何人かいる。

あ~これがジークを狙うメイド達かな。あ、ちょっと待って?これ物語によくある古参メイドからの若奥様いびりが起きる予感?

そして屋敷の中に入った。

わ~お屋敷の中も素敵。華美でなく落ち着いていてそれでさり気なく品のある調度品。

玄関ホールにはジークによく似たホイッスガンデ侯爵ご夫妻がいらっしゃった。

「おかえりなさい、ジークレイ。それとようこそお越し下さいました。ミルフィーナ=クワッジロ公爵令嬢。あら違った…ミルフィーナ=ホイッスガンデ夫人」

ニッコリと微笑んだ。ジークのお母様。歓迎されている…のかな?魔力からは嫌な感じは受けないけど…

ジークのお母様は急にハンカチーフを取り出すと目頭に当てた。あら?

どうやら泣いておられるようだ。ジークのお父様、侯爵も同様に泣いている。

オロオロしているとジークがうざそうに

「玄関先でヤメロ、フィーが困惑してる」

と言い放った。私は思わずジークの背中をドンッと突くと

「ご両親に向かってなんて言い方ですかっ!」

と叱ってから、冷や汗をかいた。しまった…親御さんの前だった。

するとジークのお母様は顔を輝かせた。

「本物のクワッジロの氷華姫だわ!怒っていても涼しげで美しいわ!」

「やっぱりジークレイのお嫁さん候補に推挙して正解だな!ミケランティスにも感謝だな」

あれ?何この反応…?隣のジークを見ても首を傾げている。ご夫妻は私を誘って応接間に案内して下さった。

「でね、ジークレイのお嫁さん候補に是非ってミケくんに頼んでいたの。でも二人が乗り気じゃないから難しい…て言われてたから諦めかけていたんだけど、良かったわ!よくやったわジーク!」

どうやら、ミケランティス兄様の引っ付けようと小細工…はホイッスガンデ侯爵家の差し金のようだった。思っていたより大々的だった。

「お前が碌でもない…アレとなかなか別れようとせんから、時間がかかってしまったが、私達の望んでいた形に納まったな~シャンテ!」

「ええ、ええ、モリーオレ」

そうなんだ…あの、碌でもない伯爵令嬢との件で難航していたのですか、知らぬは本人ばかりなり…ですね。

ジークはさっきからチラチラと私の顔ばかりを見ている。別に怒ったり動揺したりはしていませんよ?

そしてお義母様に連れられて、軍服からドレスに衣装を替えて侯爵家のディナーを頂くことになった。

因みにホイッスガンデの長兄のサザーレイ様は現在、ご領地に住んでおられて、今度二人で会いに来るように…との言伝を頂いている。

ドレス姿に着替えてジークの前に現れるとジークはそれは嬉しそうに微笑んで、頬に何度もキスをしてきた。恥ずかしい…

侯爵家のディナーは流石の美味しさと豪華さだった。

この味付けは赤ワイン?香辛料とレモンが隠し味?

ついつい自分が作るとしたら…と味を盗むことに懸命になってしまった。

ご夫妻共私の事は昔から狙っていた?だけあって友好的で心配していた嫁いびりは全くなかった。

義母からの嫁いびりは無かった…のだが。

古参メイドからの若奥様イジメは…実行されていたようだ。

「お泊り頂くお部屋はこちらで御座います」

いやあのさ、一応夫婦なんだから普通はジークの部屋でしょう?それを別棟の客室の端っこの部屋に案内するなんてね…

更に扉を開けて中を見て唖然とした。半分物置化している…

湿っぽいしカビ臭い。あ~あうちの家のメイドがこんなことしようものなら、クビにされちゃうよ。ちょっと意地悪だけど聞いちゃおうかな?

「ねえあなた、メイドの仕事は好き?生きがい感じてる?」

私に話しかけられるとは思っていなかったのだろう。案内してくれたメイドの(16才くらい?)女の子はポカンとしていた。

「私は軍人の仕事好きよ?戦場で数百規模の軍人に防御魔法をかけているけど、『助かったよ』と声をかけてもらえる時もあるわ。やりがい感じるわね。あなたもメイドの仕事でお世話した方にお褒め頂けるようになれるといいわね」

私は部屋に浄化魔法と消臭魔法をかけた。臭いと部屋の中の空気が変わる。

「戦場でね、野営も当たり前なのよ。夜ね…血の臭いと腐臭が気になって眠れない時にこの魔法便利でしょう?」

メイドの女の子は小さく震えている。

「ジークのご友人は軍人も多いからこちらにお泊りの際には日常を忘れて、安心して過ごして頂けるようにお世話お願いしますね」

メイドの女の子は顔を真っ赤にしていた。羞恥しているみたい。恥じ入ることは時には必要だ。

「案内ご苦労様、頑張ってね」

メイドの子は目に涙を浮かべていた。大丈夫、あなたは頑張れる。

「あの…若奥様、ジークレイ様のお部屋はあの…」

「おおっと、それはいいわよ。ここで充分。もしあいつが騒いで聞いてきたら一人でゆっくりしたいとの事で、離れの客室にご案内致しました。って言っておいて」

メイドの女の子はまだオロオロしているが、ニッコリ笑いかけてあげてから、本棟に返しておいた。

翌朝

昨日のメイドの女の子が朝の支度の手伝いに来てくれた。

「おはようございます。昨日若奥様のおっしゃっていた通り、ジークレイ様が若奥様を捜して夜中に騒がれまして…」

「おはよう~。ね?やると思ったわ」

メイドの女の子はちょっと悪戯っぽく笑っている。

「ゆっくりされたいとかで、離れの客室にご案内しましたよってお伝えしたら夜中に離れに行こうとされたので、クレントさんとメイド長に怒られてました」

安定のジークだ。

「ぎゃあぎゃあ騒ぐのはいつもの事なのよ」

私の軍服を肩にかけてくれながらメイドの女の子は首を傾げている。

「私、ジークレイ様ってもっとクールな感じだと思っていたのですが…」

「ジークって見た目だけは王子様でしょう?うちの事務員の女の子に残念がられてるわね~」

「見た目だけって、何?」

「きゃあ!」

メイドの女の子は突然現れたジークにびっくりして手に持っていたハンガーを取り落した。

「ジークも見た目はいいんですけどね~って話ですよ?昨日も散々クラナちゃんに怒られていたじゃないですか?女子の前で害獣の話なんてして…」

「がっ…結局部屋にゴキ○○はいなかったじゃないかっ」

「…っひ!」

メイドの女の子は小さく悲鳴を上げた。ホラまた…

今度は実家のメイド達から嫌がられるわよ~?

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