私の中におっさん(魔王)がいる。~雪村の章~

 * * *

 夢の中にいたゆりは、その中でリンゼとアンリを見た。
 声をかけようとして、手を伸ばすと、白い靄が辺りを包み込み、二人の姿は見えなくなってしまった。
 ゆりはそこで、飛び起きた。
 心拍数は至って普通であるのに、何故か胸騒ぎがしてしょうがない。

「なんか、嫌だな……」
 呟いた瞬間、コンコンと、小さく窓を鳴らす音がし、ゆりは窓を振り返った。
 そこには、伝使竜いて、羽ばたきながら嘴で窓をノックしていた。

「なんだろう?」
 不思議がって窓を開けると、伝使竜は部屋へ入り、ベッドヘ着地した。
「迷子なの?」
 伝使竜に話しかけると、伝使竜は首を回して背を示す。
「もしかして、私に?」
 伝使竜は僅かに頷いたように見えた。

 ゆりは怪訝な表情を浮かべながら、伝使竜の背に手を伸ばしてホルダーを開けた。
「何もないみたいだけど」
 ゆりが呟くと、伝使竜は前かがみになる。すると、ホルダーの奥から鍵が二つ飛び出してきた。
 ゆりは鍵の一つを拾い上げて首を傾げた。

「鍵?」
 ゆりが呟いた瞬間、激しくドアが叩かれて、ゆりの心臓は飛び上がった。
 振り返ると同時にドアが開かれ、青い顔をした雪村が勢い良く部屋へ入ってきた。

「ゆりちゃん、早く来て!」
「どうしたの?」
「アンリとリンゼが、塔の階段から落ちた!」
「……え!?」
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