私の中におっさん(魔王)がいる。~雪村の章~

 * * *

 ゆりは結と共に雪村の部屋へ行き、鍵の記憶を話した。
 アンリが何かを伝え、託すためにこの鍵をゆりへ寄こした事。リンゼの正体。アンリにあの夜何が起こったのか――全て。
 雪村は暫く絶句していたが、やがて真剣な表情を取り戻した。

「伝使竜の塔に行って来る」
「私も行く」
「ワタシも行くぞ!」
「ダメだ。俺一人で行って来くる」
 転移の呪符を取り出した雪村に、ゆりと結は食い下がった。

「私も一緒に行く! じゃなきゃ、雪村くんと別れるから!」
「え!?」
「主を守るのは、ワタシの仕事だ! 部下から仕事を奪ってイイのか!?」
「そ、それとこれとは――」
「違くない!」
 結にぴしゃりと言われて、雪村は渋々頷いた。

「分かった。結はついて来い。でも、ゆりちゃんはここで待っててくれ」
「なんで!?」
「危険な目に遭わせたくないんだよ。た、大切だから」
 口ごもりながら、顔を赤らめた雪村にゆりは首を振って返した。

「ありがとう。嬉しいけど。でも、お願いだから一緒に行かせて。足手まといになるかもしれないけど、ここでじっとして待ってなんていられないの。私にも、出来る事をしたいの。きっと魔王も力を貸してくれる。鍵の記憶を読み取ってくれたんだから」

 我ながら、人に頼りきりで情けない、とゆりは虚しく思ったが、ここに置いて行かれるよりも、一族のために何か行動を起こしていたかった。

「……分かった。一緒に行こう」
 ゆりの真摯な瞳を受けて、雪村は折れた。そして、ゆりの手を握る。
「俺から離れないで」
「うん」

 三人はフードのついたローブに着替え、呪符の文様が彫ってある壁の前に立った。そこは、クラプションの屋敷と違い、部屋にあるわけではなく、廊下の突き当たりに大きく彫ってあった。

 雪村は転移の呪符を翳した。すると、クラプションの時と同様に壁が渦を巻く水のように変化し、その中心にぽっかりと暗い穴が開いた。

「行こう」
 雪村はゆりと結を振り返って、二人は力強く頷いた。
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