私の中におっさん(魔王)がいる。~雪村の章~

 * * *

 警察(サッカン)は数時間遅れでやってきた。
 盗賊団に逃げる時間を与えたかのような到着の遅さに、どうやら、ヤーセルが言っていた事は本当だったみたいだと、ゆりは残念に思った。

 警察が来る前に、襲われた村人の怪我の手当てをしたり、死体を埋めるために外に運び出すのを手伝った。そのさいに宿屋の女主人、マリンの遺体を発見した。

 遺体は胸から腹を大きく切りつけられていて、目を見開きながら亡くなっていた。
 村の自警団の男が、マリン婆の目を閉じてやっているのを見て、ゆりはなんとも言えない気持ちになった。

 マリン婆を殺したのは、おそらくヤーセルとゼアだろう。
 村を襲った盗賊団は捕まるとしても、村を襲う前だった盗賊団は無罪放免で解散され、自由の身となり、ヤーセルとゼアはセシルの下で生きることになる。

 そんなのは、なんとなくおかしいような気がした。
 やはり、悪事を働いてきたのだから、それなりの法による罰は負うべきなのではないのか。
 ゆりは憤りを抱えてセシルを窺い見た。

『大丈夫なんですか!?』

 ゆりは、セシルがヤーセルとゼアを下僕にすると言ったとき、そう尋ねた。
 セシルは自分の言霊能力は、やろうと思えば自分の命令以外きかない廃人のような状態にする事が出来るのだと語った。

 しばらく二人を近くに置き、どうしても反省も償いもしないようなら、そうやって一生を終えさせる、とゆりに毅然と告げた。
 ゆりにもセシルの言いたい事は分かった。

 刑事罰が課せられないのならば、私刑に及ぶしかないのだという事なのだろう。
 この世界では盗賊に襲撃される事などはままあることなのだという事も、ゆりは村人の反応や話を聞いて理解したが、やはりやりきれないものがあった。

 ゆりは、マリン婆の手をそっと握った。
 一言二言、話しただけだったが、人の良さそうな笑顔が思い出されて、ゆりは密かに涙を流した。

 誰に見られても良かったのかも知れないが、ゆりは涙を隠すように、しゃがんでいた膝に肘をついて顔を隠した。
 たぶんそれは、罪悪感のようなものだったのかも知れない。

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