私の中におっさん(魔王)がいる。~雪村の章~

 * * *

 ゆりは同じ二階にある、一室に通された。
 南側の日当たりの良い部屋で、木製のベッドとクローゼットが置いてある部屋だった。

「好きに使って良いからね」
「ありがとう。雪村くん」
 ゆりがお礼を言うと、雪村はそわそわとしだした。そして、意を決したように「あのさ!」と切り出す。
「あとで買い物行かない?」
「え?」
 ゆりがきょとんとすると、雪村は耳を真っ赤にしながら、取ってつけたように言った。

「ふ、服とか日用品、買わなきゃだろ?」
「でも、私お金もってないよ」
「良いよ! そんなの。俺払うし」
「だけど、悪いよ」
 遠慮したゆりに、雪村は食い下がった。

「いや、そもそも、俺達のせいで君はここにいるんだから、それくらい当然だろ」
「……まあ、確かにそう言われれば」
「だろ? じゃあ……あとで呼びに来るな」
「うん。待ってるね」
「う、うん!」

 雪村は大きく頷きながら、嬉しさを隠せずににやついたが、そこに険のある声が待ったをかけた。

「ダメだ!」
「え?」
 怪訝に雪村が振り返ると、後ろに控えていた結が、腕を組んで仁王立ちしている。

「そういうことは、女同士の方が良い! ワタシがゆんちゃんと行く! 主は仕事!」
「……え~」
 残念さを隠しもせずに顔に出した雪村に、結は語気をきつくして、
「え~、じゃない!」
 と、頬を膨らませた。
 ゆりは、なんとなく微笑ましいような気分でその二人を見ていた。
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