私の中におっさん(魔王)がいる。~雪村の章~

 * * *

 廊下を歩きながら、ゼアは盛大な独り言を呟いた。
「俺、アイツ、なぁんか嫌いなんだよなぁ」
「おぉ~い。声でけえぞぉ!」
 ヤーセルは気だるそうに突っ込んで、ゼアを見上げた。

「ここは奴の城なんだかんな。滅多な事言うなよ。壁に耳アリ障子に目アリって言うだろーが。ま、気持ちは分かるけどなぁ。奴はあの、セバスの黒幕だかんな」
「ショウジってやつには、メアリーって女がくっついてくんのか? それは羨ましいな」
「バカ! 障子は岐附とかで使われてる戸のことだろーが!」
 語気を荒めに突っ込んで、ヤーセルは腕を組む。

 セバスとはユルーフ町の領主である。ユルーフ町はサイハン村までの領土も管理していた。功歩では、町が村の領土も管理する事は一般的であった。ちなみに、市というものは存在しない。

 ヤーセルの盗賊団は、このセバスに賄賂を渡して手を組んでいたのだが、セバスは或屡にその賄賂の半分を横流ししていた。

 というのも、このセバスという男は、一介の田舎町の領主で終わるつもりはないと野心を抱えており、同じ野心を持つ或屡に引き立ててもらおうとしていたのだ。

 或屡は昔、大臣職に就いていた事があった。だが、政権争いに負け大臣の職を失い、領主に甘んじていた。

 だが彼は密かに金を使い、王に謁見できるよう一人の大臣を抱き込んでいた。或屡は口と金遣いが上手く、数回の謁見で、王にそれなりに気に入られるようになっていた。それを知ったセバスがより多くの賄賂を渡せるように或屡に横流ししていたのだった。

「そういえばさ、ヤーセル。言霊能力者なんて危険なもん、手足縛ったまま家に置いてくるだけでよかったのか?」

「言霊能力者は確かに危険だがよ。声が聞こえないところにいれば、意味ないんだぜ。あれは、耳から脳に直接作用させる能力だかんな。もう二度と会う事もねーんだから、わざわざ殺す必要もねーだろ」

 素っ気無く言ったヤーセルだったが、どこか言いわけがましく感じられ、ゼアはわざと怪訝な瞳を向けた。

「セシルは、あのガキどもが三条一族の人間だって知らないんだろ? 教えなくて良いのか?」
「……」
 一瞬、瞳に戸惑いを走らせたヤーセルだったが、わざと呆れた声音を出した。

「だからぁ、もう二度と会わねえって言ったろ。わざわざ廃人にされにいくバカがどこにいるよ」
 前を向き直ったヤーセルに向って、ゼアは口をパクパクとさせて口ぱくで何かを言ったが、やがて口をつぐんだ。


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