何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【前編】


「やっぱり…。全て忘れたのか?天音?」

辰は、そんな天音の頭頂部をやっぱり心配そうに、どこか寂しそうに見つめていた。

「お母さんなんて、いないんだってば!」

天音は何故か自分の中から生まれてくる、この感情を抑えられず、そのイライラを彼にぶつけた。

「天音、奇跡の石を探すんだ。君の近くに石はあるはずだ。」
「え…また石?」

それは、かずさも口にしていた奇跡の石。そしてあの試験の時も、誰かが口にしていた。

『石を…おねが…い。』

そして自分の母を知っていると言うこの男も、石を探せと言う。
天音は何が何だかわからず、困惑の表情を浮かべるしかない。

「なんで私がその石を見つけなきゃいけないの…。」

天音が俯いたまま小さくつぶやいた。

「私にはわからない。でも、それが君の母親が君に伝えたかった事だ。」

しかし、天音は俯いたまま何も答えない。

「君のお母さんの…。」
「帰ります!」

辰の言葉を遮るようにして、天音は扉に向かって駆け出した。
もうこれ以上は何も聞きたくないと、言わんばかりに。

「待っ!」

バタン!

辰の呼びかけも虚しく、天音は逃げるようにその場を去って行った。





————私にはお母さんなんていない。だって私は捨てられたんだから…。


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