何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【前編】
「は?」
「へ?」

そこに現れた人物を見て、月斗とりんが同時に声をもらした。

「…京司?」

そして天音はそこに現れた、彼の姿を見てその名を小さくつぶやいた。

「は?え!?」

りんは、突然の事に、何がなんだかわからず、先程よりもさらに大きく声を上げた。

『俺は…きょうじ。』

りんの頭には、いくつもの疑問が瞬時に浮かんでいき、頭の中が大渋滞だ。
一度だけ会った天使教と思われる人物は、確かにその名を名乗っていた。そんな彼が再び目の前に現れた。
そして、その名前を、何故か天音が目の前で呼んでいた。

(いや、それより!)

「は?お前何しに来た。」

その疑問を口にしたのは、月斗の方が先だった。月斗は明らか先程より、殺気立っている。
月斗と京司が会うのは、月斗が城の牢屋に入れられていたあの日以来…。
天敵と言ってもいい月斗の前に、ノコノコ現れた京司のその意図は、誰も分からない。

「そ、そうやな。あんた何でここに…。っておたずねもんもこの人知っとんのか?」

りんも天使教がわざわざ、しかも一人でこんな山奥にやって来た事に、心底驚いている。
しかし、もっと驚いたのは、月斗の口ぶりからして、どうやら二人は初対面ではなさそうだという事。

「花火がこっちの方に、見えたから登ってみた。」

当の京司は、何の悪気もなさそうに、あっけらかんと彼らの疑問に答えた。
しかし、本当に京司は、その言葉通り、ふらりとここを訪れただけ。特に目的はなく、月斗を見つけてやろうなんて魂胆は全くない。

「なんやそれ!」

りんは元々もっている気質なのか、そこでツッコまずにはいられなかった。
まあ、それは彼のDNAに組み込まれた性なので仕方ない。

「あ、京司も見たんだ!綺麗だったでしよ?月斗があげたんだよ!」

天音も今日ばかりは周りの空気を読めずに、ただ嬉しそうに京司に向かって、いつものように話しかけた。
そう、天音だけが知らない。

———彼の正体を…。

< 147 / 339 >

この作品をシェア

pagetop