何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【前編】
「帰りなさいよ。妃はあきらめて。」

そんな華子とは真逆の星羅は、いつものように冷静にその一言を放った。
そんなにおじいちゃんが大事ならば、妃をあきらめて、村に帰ればいい。
そう、ただそれだけの事…。

「それは、嫌だ!私は、妃になる!」
「は?」

天音は、まるで、だだをこねる子供のような一言を間髪いれずに口にした。
しかし星羅は、天音のその身勝手な言葉に、一瞬にして顔を歪めた。

「妃になるために、今知らなきゃいけないの!」

そして、そんな星羅にひるむことなく、彼女の目をしっかり見て、天音は強い口調でそう言った。

「あなたには、妃は無理よ。他に大事なものがあるんでしょ?ここは、あなたが来るべき場所じゃなかったのよ。」

星羅は、訳のわかない事ばかり言い出す天音に、また冷酷な一言で反論してみせる。
さっさと帰ってしまえば、それで終わる単純な話なのに、一体彼女はなぜそんな遠回りをしたがっているのか…。
星羅には、到底理解できなかった。

「違うよ…。ここは私が来るべき場所だったんだよ。」

天音の真剣な目が星羅を再び射抜いた。

「え…?」
「どういう事?」

その真っ直ぐな瞳に、思わず星羅は反論する事を忘れ、ただ彼女のその瞳に釘付けになった。
そんな星羅に変わって、その真意を尋ねたのは、華子だった。

「この町に、私のお母さんがいたんだよ…。」
「へ?お母さん?」

天音の突然の告白に華子は驚き、すっとんきょうな声をあげた。
なぜなら、ついこないだ天音は赤ん坊の頃に捨てられた、という話を聞いていたからだ。

「私を捨てたお母さんが、この町にいた。でも、もう死んじゃって今はいないけど。」

そう言って天音は下を向いた。

「…だから、元気なかったんだね…。」
「…。」

華子は、優しい眼差しで天音を見つめたまま、彼女の心情を察した。
一方の星羅は、感情も顔に出すことなく、ただ口を閉ざしたままだ。

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