何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【前編】
「何だよゴチャゴチャと。」

京司が次に向かったのは、宰相や宦官達、この国の政に関わる人物達の元だった。
士導長は一人で報告をしに行くと言ったが、京司は自分も一緒に行くと言って聞かなかった。
彼らが簡単に京司の提案を受け入れるわけがない事は、目に見えていたからだ。

「妃候補を帰らせると?」
「ああ。」
「一体何をお考えですか?」

宰相達がそんな提案に反対するのは、ごもっとも。彼らがそんな面倒な事をしたくないのは、京司にはわかっている。
そして、そんな事を提案してきた京司の意図は、彼等には全く見えない。

「試すんだよ。一度解放すれば、やっぱり外の世界がいいって奴もいるだろう。そんな奴に妃は無理だからな。」

京司は、ここでももっともらしい理由を並べ、何とか説得を試みる。
彼らが士導長と違って一筋縄ではいかない事はわかっている。
しかし、ここを突破しなければこの提案は無かった事にされてしまうのだ。
京司は、それだけは何としても阻止しなければならなかった。

「それで戻ってこない奴はそこまで。」
「…。」
「それに、妃候補だってストレスたまるだろう。城にいつまでも留まらせて。」
「私の責任でございます。いつまでも妃を絞れずにいるのは…。」

そこで士導長が口を開いた。

「お前はだまってろ。」

すかさず、それを京司がかばう。
それは、士導長のせいではない。これが自分勝手な提案であるのは、京司は重々承知の上。
だからこそ、天使教という権威をここで発揮するしか方法はない。

「妃は物じゃない…。」

そして、京司はポツリとつぶやいた。

「とにかく、これは命令だからな。天師教様の。」
「…。」

ここぞとばかりに、彼は自分の武器を使うしかなかった。天使教の命令は絶対。それはこの国の掟。
その場にいる誰一人、何も言えずに口を固く結んだ。

(こんな時ばかり天師教の権力を使って…。)

しかし、そんな宰相の心の声は、その顔を見れば一目瞭然だった。

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