何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【前編】


「お前…どこから来たんだ?」

彼は、自分の周りにはいないタイプの人種に興味がわき始め、天音にそんな事を尋ねた。
まるで面白いおもちゃを見つけた時のような、好奇心旺盛な笑みを浮かべて。

「えっと、村は、輝夜(かぐや)村っていうんだ。」
「かぐや…?」

それは、彼の聞いた事もない村の名前だった。田舎者というのだから、きっと小さな村なのだろう。
この国には、彼でも知らないような、小さい村がまだまだたくさんあるようだ。

「やっぱり知らないよね。だって、こんな大きなお城に……!?」

その瞬間、天音は思わず息を飲んだ。
そして今日初めて会ったばかりの彼の顔を、まじまじと見つめた。

…もしかして……バレたか……?
彼は、みるみる表情を変えていく天音を見て、眉をしかめた。

「も、もしかして、ここに住んでる人!!」
「…ああ。」

しかし、天音のその質問は、彼の想像しているものとは、少し違ったようだ。
よく見ると、彼は、天音が今まで見たこともない立派な竜の装飾のほどこされた綺麗な服を着て、彼の耳には、黒い小さな十字架のピアスが光っていた。
きっと彼は、この城の者に違いない。無知の天音でも、それぐらいは予想する事ができたのだ。

「すっごい!!」
「へ?」

天音は興奮気味な様子で、思わず叫んだ。
彼は天音のその反応がよくわからず、その様子を見て、ポカンと口を開けたままだ。
一体何の事を言っているのか、その一言では判断が難しい。会話には主語が不可欠だというのに、彼女の言葉にはそれがない。

「ついに私、お城に来たんだ!!何か実感わいてきた!」

天音はなぜだか、この城の人間に会う事で、城にやって来た事を実感し始めていた。
そしてその様子は、少しワクワクしているようにも彼の目には映っていた。

「ハハハ。お前変わってんな―。」

彼はそんな天音を見て、また笑いが込み上げてきた。
彼の周りには、こんな素直に感情を表す人間はいない。コロコロと表情を変える彼女が、彼の目にはとても魅力的に映っていた。
こんなに笑ったのは一体いつぶりだろうか…。

「…何と比べて?」
「え…?」

天音はキョトンとした顔で、彼の言葉に疑問を唱えた。
そんな天音の発した言葉は、またもや彼の予想もしないものだった。

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