私の中におっさん(魔王)がいる。~黒田の章~
* * *
「……クソッ!」
功歩陣営は、悔しさと悲しみに沈んだ。
本日の戦闘で、五千近くが戦死した。その殆どが陸軍である。
喰鳥竜隊は本陣に残してあった千騎を残して全滅。
穴に落ちた者の中には生き延びた者もいるだろうが、捕虜となり戦場には戻らないだろう。
挟み撃ちにされた四足竜隊は、その半数以上が死亡。残りは命からがら生き延びた。本陣に残していた千騎と合わせても、三千に満たなかった。
大敗は目に見えていたのである。
一方、死者数を五十に満たないで押さえ、歓喜に沸いていたのが美章軍陣営である。
これで、勝利は確定だ。功歩軍は撤退するしか道はないだろうと、歓喜に沸いていたのは作戦本部の天幕でも同じだった。
集まった将達は起死回生の奇跡に酔っていた。
ただ一人、ろくだけは、喜びもせずに腕を組んで椅子に腰掛けた。
どことなく浮かない表情だ。
その隣には、東條の姿があった。
そこに、二人の青年兵が入ってきた。
膝を突きながら頭を下げる。
「おう! 立役者がやってきたか! 良くやったな、丹菜、千時!」
「はっ! ありがたく存知ます!」
会田の賞賛に、二人は声を合わせて更に頭を下げた。
「丹菜、鼻血噴いて倒れたんじゃって?」
からかうような東條の声に、二人はぽかんとした。
「え、あの……」
丹菜の戸惑う声音に、東條は「ああ」と呟いた。
すると、東條の顔がぐにゃりと歪み、代わりに現れたのは、三十代前半くらいの、糸目の背の低い男だった。――弘炉だ。
そこで初めて丹菜と千時は今日指揮をとっていたのが東條ではないのだと悟った。
ろくの命令で、弘炉は東條に姿を変え、ろくの指示通りに指揮を送っていたのだ。その弘炉の変わりに、赤井が四足竜隊の任に就いたのだった。
千時はちらりと、ろくを見た。
(この少年は……本当に奇想天外なことをする)