私の中におっさん(魔王)がいる。~黒田の章~
* * *
ろくは、穴の中で死んでいる功歩軍数名の死体を損壊させる命令を下した。
まだ墓穴として塞がれていなかった穴の中で、死体は害された。
美章兵としても、心地よいものではなかったが、命令ゆえしょうがないと、死体の鼻を削いだり、耳を切り落としたりした。
それよりも酷い事をしたりもした。
中には喜んでその任に就いた者がいたが、その者達の殆どが功歩軍に多大なる恨みのある者達だった。
そして、捕虜一名を連れてきて、死体の損壊現場を見せ付けたのである。
捕虜は、大よそ捕虜として大人しくしていない人物を選んだ。
そして、仲間の死体が害されるのを見た捕虜は、その目に怒りの炎を上げ、美章兵を罵倒しだした。
それを見計らって、ろくは捕虜に何かを耳打ちした。
すると捕虜は途端に大人しくなって、何かに怯えだした。
「待って! 待ってくれ!」
突然捕虜は懇願し、泣き出した。
それを見て、ろくは片眉を上げて、わざと下品に笑い出した。
「止めて欲しい?」
「はい……はい!」
へこへこと頭を下げる捕虜に、ろくは酷薄に微笑みかけた。
頬当てから出された緑色の目がへの字に曲がったが、瞳の奥は暗闇を写したように、冷たい。
捕虜は、ぞっと背筋を凍らせた。
「じゃあ、どこかを切り落とすだけで勘弁してあげるよ。どうする?」
そんなの嫌だ。当たり前である。
だけど、ろくの先程のささやきが、捕虜の胸を埋めた。
『今からお前も、こうなるんだよ。生きたままね』
生きたまま、耳を削がれたり、頬を抉られたり、目を刳り貫かれたりされるくらいなら、どこか一つ部位を切り落とされるくらいなんてことはないはずだ。
捕虜は、そんな気になった。
だけど、怖い。恐ろしい。
そこに、ろくが天使のように優しい声を出した。
「大丈夫、キミには特別に麻酔をしてあげるよ。破傷風予防の注射もしてあげよう。大丈夫、ちゃんと手当てをしてあげるからね」
にこりと笑む。
今度は、目尻までちゃんと閉じられた。
「でも、その代わりお願いがあるんだ」
「え?」
「キミを功歩軍に帰そうと思う」
「本当ですか!?」
「うん。その時にね、荷物を届けて欲しい」
「荷物……」
捕虜は二つ返事で快諾した。