私の中におっさん(魔王)がいる。~黒田の章~
要約すると、こんな感じだ。
「ふむ……」
正義の味方と、悪役が逆になってる。
これになにか、意味はあるんだろうか?
「う~ん……」
考えてはみたけれど、考えるだけで何も浮かんでこない。
だって、ただの物語にしか見えないし……。
いや、実際私の中に魔王はいるんだけど……。
でもなぁ、それがこの二つの物語と関係しているとは、正直思えないっていうか……。
ようは、遣う人次第ってこと? 遣う人次第で、善にも悪にもなるよっていう教訓物語ってやつかな?
(うん。ダメだ。それ以外に思いつかないわ)
開き直って本をパタンと閉じた。そこにタイミング良く館内放送(地声)が響いた。
「只今時刻、天秤刻(てんびんのこく)となりました。閉館いたします!」
カウンターで、黒髪の女性が声を張り上げていた。それと同時に、カウンターにいた受付嬢が一斉に動き出す。
ある者は二階に上がり、ある者は三階、ある者は一階をぐるぐると見回り始めた。
「閉館いたしますので、ご準備ください」
「あ、はい。すいません」
私に声をかけたのは、あの白い髪のお姉さんだった。私は慌てて立ち上がる。
どうやら彼女達は見回りと称し催促に出たみたい。私は、本を戻して、そそくさと図書館を出た。そこで、急にはたと気づいた。
「――っていうか、六時って……」
辺りは日が落ちて、すでに暗闇が迫っていた。
かろうじて西の空は明るさが残るものの、あと数十分もすれば辺りは闇に包まれてしまう。
「うわあ……どうしよう。もう市やってないかも」
私は焦って駆け出す。大通りに出た頃には、もうすっかり店じまいを済ませ、露店商は引き払うところだった。
「間に合わなかった……」
がっくりと肩を落とした。
クロちゃんになんて言おう。夜ご飯は食べに行けるとしても、朝ごはんなしで出勤してとは……言い辛い。
「なにしてんの?」
不意に声をかけられて、心臓が飛び跳ねた。
(今の声って――)
勢い良く振向くと、
「クロちゃん!」
「なんか肩落としてたけど、どうしたの?」
うっ……なんて言おう。
「えっと……その……」
ええいっ! 素直に謝っちゃえ!
「ごめん!」
「は?」
勢い良く頭を下げると、クロちゃんの唖然とした声が聞こえてきた。
「あのね、市でご飯買えなかったの! だから、今日の夜と、明日の朝のご飯が……」
「ああ。そんなこと?」
(え?)
あっさりとした声音に顔を上げる。
「良いよ、別に。ぼく、元々あんまり食べないし」
そういえば、クロちゃんとご飯を食べるのは夕食だけだけど、私よりも食べてる量は確かに少ない。
朝と昼はもりもり食べて、夜はセーブしてるのかと思ってたけど、考えてみたらそんな女子のダイエットみたいなこと、メイク男子でもないかぎりやるわけないよね。
ましてや、育ち盛りなんだし。
うちのクラスの男子はそんなこと気にせずいっぱい食べてたもんなぁ。
「ダメだよ。いっぱい食べなきゃ!」
「それ、買出し忘れたキミが言うわけ?」
(うっ。痛いとこつかないでよ。いじわるっ!)
クロちゃんは意地悪く、にやりと口の端を上げた。
(むむう~、生意気なっ!)
「ま、済んだ事はどうだって良いよ。それよりさ――」
クロちゃんは軽く言って、私に向き直った。
「これから食事もかねて、デートしない?」
「……へ?」