私の中におっさん(魔王)がいる。~黒田の章~

「あいつさ、ぼくと会うたびに白星だって言うんだよね。それってつまりはさ、あの出来事を思い出させるために言ってる嫌がらせなんだよ。最初は、睨んだり悪態ついてみたりしてたんだけど、それって結局奴を喜ばせてるだけなんだよね。だから、今では何事もないような顔で接するんだ。それが奴を一番不愉快にさせるから。本当は今すぐにでも、殺してやりたいけどね」

 憎しみが、緑色の目に滲み出た。
 それを見て、ゆりはふと思い出した。
 つい先程だ、赤井セイがやってきて、いつもなら一言皮肉や嫌味を言うはずの黒田が、何も言わなかった。それに、やつは、しきりに白星と言っていたのではなかったか――。
 それに思い至ったとき、ゆりは突然顔を歪ませた。

「あ、待って、泣かないで」
「う……ごめん……ごめん、無理!」

 黒田の弱い制止は効果がなく、ゆりは「うわ~ん!」と、声を上げて泣き出した。
 困惑した黒田は、ぽりぽりと頬を掻き、苦笑しながらゆりの頭をなでた。
 ひとしきり泣いたあと、一息吐き出して、やっと泣き止んだゆりに、黒田は言い辛そうに話した。

「だからね……キミに触れられないのは、そういうわけなんだよね。ぼくだって、男だからさ、胸の大きい女を見れば生で見たいとも思うし、キミと――好きな人といれば、触れたいとも思うけどさ……だけど」

 そこまで言って、黒田は言葉を詰まらせた。
 口元を押さえた左腕が、微かに震える。
 それを察して、ゆりがそっと左手を取った。
 ぎゅっと握る。
 言えない、言いたくないなら言わなくていい。
 握った手にそう想いを込めた。
 黒田は、ゆりの言いたい事がなんとなしに解った。
 ゆりの手を握り返す。
 しかし、まだ手は震えたままだ。
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