私の中におっさん(魔王)がいる。~黒田の章~
* * *
メモ帳を見ながら、手順どおりに準備して、手順どおりに作った。途中で何回か油がはねて熱い目にあったけど、ぐっと我慢した。
「できた!」
揚がった肉を満足に見つめる。
ふとウロガンドを見ると、かなり時間が経っていた。
(うわ。二時間半も料理してたんだ……)
「あれ? クロちゃん遅いな」
いつも帰ってくる時間から、一時間は経っている。
「もしかして、なにかあったの?」
急に不安になった。そこへ玄関からノック音が響いた。
私は慌てて駆けて、勢いよくドアを開いた。
「きちゃった! 隊長! ――あれ?」
私は目をぱちくりさせたまま、固まってしまった。
(誰!?)
玄関先には、複数の男性がいた。
「――え、誰?」
一番前にいた男性が戸惑ったように呟いた。
それは、こっちのセリフ。
「えっと……もしかして、隊長って黒田くんのことですか?」
「え、あっはい。そうです。お宅さんは?」
「私は、一応一緒に住まわせていただいてるんですけ――」
「ヒュウ! マジかよ隊長! やるぅ!」
言い終わらないうちに、ヒューヒュー!と、男子だけで盛り上がり始められた。
(……このノリ、苦手)
困惑してると、男性達が気づいたのか、盛り上がるのをやめて気恥ずかしそうに咳払いをした。
そして、やっぱり一番前の人が、真剣な表情をして切り出した。
「あの、黒田隊長なんかあったんすか?」
「え?」
「今日やけに沈みがちだったから――な?」
隣の男性に同意を求めると、隣の男性は大きく頷いた。
「うん。いつも気だるそうに、嫌々やってますって感じだしてるけど、訓練になると、ちゃんと指揮とってやってくれるのに、今日は全然身が入ってなかったもんな」
だよな、と次々に頷いていく。
(……私のせいだ)
「あの……」
「もしかして昨日パレードで赤井セイにあったんじゃないですよね?」
「え……?」
赤井って言うと、息子の方? それともお父さんの方?
私が戸惑っていると、一番前の男性が、「やっぱり、会ったんですね!?」と、確信を得たように訊ねてきた。
「えっと、赤井さんには会いましたけど――」
どっちの赤井さん?
「やっぱりな!」
尋ねる前に、男達は合点がいったという風に拳を叩いた。
「赤井の野郎いつも隊長のこと、白星だっつって突っかかってきやがって!」
「そうだよなぁ。隊長は白星なんかじゃねえ、れっきとした美章の人間だっつーの!」
「でもさ、隊長、一回も気にするそぶり見せた事ねーじゃん。本当にそれが原因かな?」
「バカ。三年前の事忘れたのかよ? ふつーあんな事されてショックじゃねーやつなんていねーよ!」
三年前って、あの式典の時のことだ。
やっぱり……ショックだったろうな……。
「あの――」
その時のクロちゃんのようすがどんなだったか気になって、意を決して訊こうとした時、一番前の男性が手を挙げた。
「分かりましたわ。隊長が沈んでた理由。ありがとうございました!」
「ありあっした!」
男性のお礼を合図に、全員が一斉にお礼を口にして頭を下げた。
「いえ……」
男性達は、わいわいと喋りながら去って行く。
私はその背中を見送った。
彼らがクロちゃんを大切に思ってくれてることが嬉しかった。私が何かできることなんてないのかも知れない。彼らがいるのに、おこがましいのかも。だけど、私の胸はなんだか温かかった。
でも多分、彼らの導き出した答えは勘違いだと思うんだけど。