私の中におっさん(魔王)がいる。~黒田の章~
* * *
通常の任務が終わっても隊長は帰ろうとしなかった。
いつもなら真っ先に、こんな所にいてたまるかって言うくらいに速く帰るのに。
多分、昼間に受け取った巻物をこっそり見る気だろう――と、俺はふんで隊長の後をつけた。
俺ってば、隠密は大得意なのだ。
気配を消して、背後からブスリっていうのが定石さ。
多分、柳と結あたりもその辺のプロだろう。月鵬なんて、きっとプロ中のプロだぜ。俺と同じ臭いを感じたのさ。ふふん! ――なんて、かっこつけたりして。
隊長は、隊長室にこっそりと入っていった。
位をもらえるようになると、王宮内の訓練場に、それぞれの部屋が与えられるのさ。
俺は、こっそりとドアを開いて覗き見る。
「――痛あっ!」
覗き見た瞬間、目に激痛が走った。
寸前で見えたのは、隊長の二本の指だ。
目をパシパシと瞬かせる。
涙が晴れて、ぼんやりと廊下が見えてきた。
ああ、良かった。大した事はなさそうだ。
「ひどいっすよ隊長!」
勢いよくドアを開け放つと、隊長のそっけない声が飛んできた。
「うるさい。いいかげんストーカーやめてくんない? 翼」
「ストーカーじゃないっすよ! 隊長が心配なんす!」
隊長は鬱陶しそうに、巻物を開いた。
こっちをチラリともしない。
俺は、本気なんだけどなぁ……。
「それにしても良く分かりましたね?」
「十歳の頃から後つけまわされてれば、嫌でも分かるようになるだろ」
そっけなく言って、巻物を読み進める。
やはりこちらをチラリともしない。
俺は、隊長が十歳の頃から知ってる。
初めはなんて不遜なガキだと思った。
隊長が指揮をとることになった時も、どうせ失敗して、多くの仲間が死ぬんだと高をくくっていた。
ちょっと他より強いだけの、ただのガキだ。
こんなガキに任せるだなんて、上層部も血迷った事をしたもんだと呆れ返っていた。
ところがどっこい、蓋を開いてみりゃ、勝利しちまった。
しかも自軍の死者数は極端に低く戦況を治めてしまった。
当時の上層部は面白くは思わなかっただろうけど、俺は心底すげえガキだと尊敬すらした。
でも、隊長は不安定だった。
決して表には出さなかったけど、功歩に対しての怒りようが半端じゃなかった。
それが策にも如実に現れていたようにも思う。
功歩軍を追い込んで、追い込んで、追い込んで、二度と歯向かえなくしてやる――そんな感じだった。
目もギラギラしていた。
憎しみの対象者を常に探してさ迷ってるような、そんなガキだった。