私の中におっさん(魔王)がいる。~風間の章~

 * * *

 宿屋を出た私達は、次の町、兎様(うよう)に向う。
永での最終目的地である所陽へは、兎様、際弦(さいげん)、実那鬼(みなき)を通って、三日で着く予定だ。
 一日歩けば、一つの町へ着く。そういう計算らしい。
(一日かぁ……長いなぁ……昨日の疲れもろくにとれてないのに)
 私は密かにため息をついた。
(しょうがない。なんとかなるでしょ)
 私は小さくガッツポーズをとって、とりあえず自分を鼓舞しておいた。


 * * *


 二,三時間に一回休憩を取りながら、森の中を歩く。
 今はお昼休憩中だ。お昼ごはんは、豚竜の干し肉のみだった。風間さんも同じメニューなんだから、文句は言えないんだけど、でも……ひもじいです。
 夕食は、昨日みたいにいっぱい食べれると良いなぁ。
(人間、辛いときの楽しみって、食事の事だけなんだな)
 本能のなせる業なのかも知れない。

「行きましょうか」
「あ、はい」

 昼休憩を終えて歩き始めたけど、相変わらず、風間さんは速い。やっぱり着いていくのに必死だった。
 あれから速いですか? とは聞かれない。でも、足の心配はちょくちょくしてくれる。私は、少しだけ前を歩いている風間さんの顔を窺い見た。

「……」

 真剣だ。どこか、必死な気もしないでもない。私の視線に気づいて、風間さんはにこりと笑いかけた。しかし、すぐに前を向いて歩き出す。
 なんとなく話しかけるのは憚られて、私達は会話もなく歩き続けた。そして、日が暮れる前に兎様(うよう)に入ることができた。
 兎様も牌楼で、私と同じ背くらいの塀に囲まれていた。でも、灰楼と樹枝海と違って牌楼の前に門番がいる。
 パスポート代わりの、なんだっけ……入国証(ゲビナ)だ。それがないと、入れなかったりするんだろうか?
 心配していると、風間さんに大丈夫ですよ、と笑いかけられた。

「ゲビナを確認するのは、主要な都市くらいですから」
「って、じゃあ、戸陽ではいるってことですよね?」
「はい。でも、大丈夫ですよ」

 言って、風間さんは笑った。

「なんとかしますから」

 そう呟く。
 今の笑顔は、何か企んでる。そんな顔だった。……気がする。
 まあ、気のせいかな。

 私はこの時のカンを大切にした方が良かったんだと、ずっと後になって、後悔することになる。

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