私の中におっさん(魔王)がいる。~風間の章~

 * 

 気がついたときには、私はもう牌楼を潜り、際弦を出ていた。
 緩やかな丘を登り、遠くなった際弦を見渡す。
 
 涙が、止まらない。
 止りそうもない。

 嗚咽することもなく、私の頬を伝っていくだけの雫。
 瞬きをするたびに、二人の顔が浮かぶ。

――どうして、あの二人があんな目に合わなければならなかったんだろう。お腹に子供もいたのに。

「……殺されたんですか?」

 しわがれた声で、ぽつりと呟く。
 風間さんは握っていた私の腕を離した。

「……おそらくは、そうでしょうね」

 ぽつりと言って、風間さんは視線を落とした。
 あんなに、幸せそうだったのに。
 これから、結婚式だって言ってたのに。子供も……。

 貞衣さんの明るい笑顔が浮かんで消えた。
 その途端、表情が崩れたのが自分でもわかった。

「うう……ひぐっ」

 その場にしゃがみこんで、嗚咽して泣き崩れた。
 私の肩に少し冷たい手のひらが乗る。
 風間さんがなにを思っていたのか、どんな顔をしていたのかはわからない。
 でも、私が泣き止むまで黙って傍にいてくれた。


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