私の中におっさん(魔王)がいる。~風間の章~

 * * *


 次の目的地である実那鬼(みなき)へは、思ったよりも早く着いた。
 羊の刻(十二時)に食事休憩を取り、それから三十分程度で着いてしまった。牌楼をくぐると大通りが顔を出し、人々が賑わいを見せている。

「どうします、食事を取ってしまいますか?」

 もう一度昼食を摂るか、と風間さんが尋ねてきた。
 普段だったら即座にイエスと答えるところだったけど、そう返事をする気にもなれず、まごまごしていたら風間さんが突如声を上げた。

「あ!」

 びっくりして、肩を竦める。
 風間さんを仰ぐと、

「お饅頭ですよ」

 と言って、微笑んだ。
 私の手を取って、はしゃぐようにお店に駆け寄る。

(なに、どうしたの?)
 私は、風間さんの普段にないはしゃぎっぷりに戸惑いが隠せなかった。

「二つ下さい」
「あいよ」

 風間さんが注文をして、すぐにお饅頭が出てきた。
 その一つを私に手渡す。

「どうぞ。美味しいですよ」

 ほかほかと湯気を立てる、蒸したての茶色いお饅頭。私の手のひらと同じくらいの、大きなお饅頭だ。私はそれを受け取った。
 なにげなく風間さんを見上げると、にこにこしながらお饅頭を頬張っていた。

(そんなにお饅頭好きなのかな?)

 そう思いながら、ふわふわしたお饅頭を口に運んだ。
 ふわんと甘さが広がる。気づいたら、自然と笑みがこぼれていた。

「……美味しい」
「でしょう」

 ぽつりと呟くと、風間さんが相槌をうった。
 もしかして、気を使ってくれたのかも知れない。

「……ありがとうございます」
「なにがです?」
「奢っていただいて」

 きょとんとする風間さんに、私は本来の意図とは別の理由を告げた。
 まあ、それも含んではいたんだけど。

 風間さんは、いえいえ、とにこりと笑った。
 まだ日が高いから、これから所陽へ向っても良かったのけど、珍しく今日は実那鬼で一泊することになった。宿探しの最中に、ふと上空を見上げるとあの鷹鳥がいた。繁華街の方で先回している。
 また、旅人の手荷物を狙ってるんだろう。

 なんとも複雑な気分で、鷹鳥を見やる。
 そのまま裏路地へと入り、暫く歩いたところでボロ宿屋が見つかった。

 でも、驚いたことに他の町に比べると格段にキレイだった。
 瓦ははがれて落下してないし、壁は汚れてるけど外壁が壊れているところはひとつも見当たらない。
 主要都市に近い分、整備が整ってるのかも。

 宿屋に入ると、例のごとく無愛想なご老人が出迎えてくれた。
 ご老人は鍵を二つ放る。
 どうやら、今夜の寝床はここで決まりらしい。

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