私の中におっさん(魔王)がいる。~風間の章~

 * * *

 実那鬼の街は大勢の人で賑わっていた。
 主に商人風の人が多く、次に旅人風の人が多かった。
 真っ直ぐに続く大通りを歩く。
 風間さんは着かず離れず、少し後ろを歩いていた。

 そういえば、風間さんって横に並んで歩いたことって一回もない。倭和でもそうだったけど、少し後ろにいたり、少し前にいたりすることばかりだ。

「風間さんって、どうして並んで歩かないんですか?」

 風間さんは、驚いたような、はっとしたような、そんな顔をしていた。なんていうか、思ってもみなかった、みたいな。

「……そうですね……何故でしょうか」

 困ったように笑って、

「多分、そうですね。人に仕えることが長かったからかも知れませんね」

 自分に聞かせるように言って、風間さんはまた笑った。微苦笑だ。
 この人が笑顔でいるのは、やっぱり癖なんだな。
 半歩引いて、あるいは半歩進んで歩くのと同じように、もう染み付いた、自覚していない、癖なんだ。
 なんだか、他人行儀が少し哀しい。

「あの……」
「はい?」
「並んで歩きませんか?」

 断られるのは分かり切ってるんだけど、でも、ちょっとくらい、例えダメ元でも、期待したい。仲良くなりたいって思うのはイケナイことじゃないはずだもん。

 風間さんは、一瞬迷いのある表情をした。
 そして、

「貴女が良ければ」

 と言って微笑んだ。
 今のは、完璧に愛想笑い。

 とはいえ、嬉しい言葉であることには違いないわけで。
 私は喜び勇んで、風間さんと並んだ。

 腕でも組めたらもーっと嬉しいけど、そんな贅沢は言わないのだ。
 横に並んだ風間さんを見上げると、ぎこちなさそうに笑っていた。
 やっぱり横に誰かいるというのは落ち着かないみたい。
 ちょとわがままだったかなと思いつつ、にんまりしてしまうのだ。
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