私の中におっさん(魔王)がいる。~風間の章~

 * * *


 風間は、内心、心底疎ましく思っていた。
 それは、自分と、自分の体質についてだった。

 風間は、子供の頃から船に酔う体質だった。
 船旅をしなければならない時は、いつも憂鬱だったが、部下と旅をする事が多かった彼は、弱った姿を見せる事ができなかった。

 いつも個室を取るか、この船のように客室が一つしかない場合は、ひたすら我慢し、耐えられなくなったら甲板に逃げた。
 とにかく人目につかないように徹底してきた。

 もしかしたら部下は気づいていたのかも知れなかったが、近寄られた事もなかったし、何かを言われたこともなかった。
 
 最も彼は、普段部下に対しては、『近寄るなオーラ』を出すことがしばしばあった。なので、部下も普段から必要以上に風間に接しようとはしなかった。

 彼は今回も、そのようにするつもりだった。
 しかし、生来の心配性である彼は、貴重な魔王であるゆりを、一人にして置く事がどうにも出来ず、客室に姿を現すことにした。

 そして予想通りに心配され、若干、というか、ぶっちゃけたところまざまざと、鬱陶しく思っていた。

 しかしながら、それを出す事も出来ず、とりあえずお得意の愛想笑いで凌ごうとしていた。

 だが、ゆりは突如切れた。
 気分が悪い中で怒鳴られ、風間は苛立ちを隠せなくなった。
 苛立ちの中で、風間は自分が発した言葉に絶句した。

――私は弱くない。

 そんな言葉に打ちのめされそうになった。
 自分の状態を情けなく思う。

 気分が底に沈みかけて、吐き気によって浮上した。
 夢中になって吐く中で、湧きあがって来た自分の気持ちに蓋をする。

 すると老人の声が響き、何か良い事めいた事を言って、そして何故か、膝枕をされることになってしまった。

 暫くして、そのまま疲れて寝てしまった風間だったが、暗くなって目が覚めた時に、眼前のゆりの寝顔を見て、

――慣れない。

 心底そう思った。
 決して嫌なわけではない。
 ただ、一人で耐えてきた風間にとって、誰かに看病されることはとても慣れない感覚だったのだ。
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