私の中におっさん(魔王)がいる。~風間の章~

 * * *

 日が沈む前に各自で食事を終えて(食事の支度や用意は各自で行う)日が落ちてしまってからは、やることもない。
 なので、蠍の刻(七時)にはもうテントへ入っている人がちらほらと見えた。残ってるのは五人。

 チャラ男と、おばさんと、足運屋の三人。
 足運屋のうち二人は屈強な戦士といったいでたちだった。
 服装はシャツに皮のベスト、皮のズボン。紐で飾られたブーツを履いていて、普通の瞑国人といった感じだけど、腰に剣を挿している。
 それに、体つきがムキムキのマッチョマンだった。ボディビルダーっていうよりは、プロレスラーみたいな体系。

 風間さんいわく、彼らは賊などに備えての用心棒なのだそう。
 足運屋には何人か用心棒がいるらしく、長旅や危険な場所を通るときにつけるのだそうだ。

 もう一人の足運屋の男性は、彼らとうって変わってひょろっとしている。だぼっとした腰まであるシャツに、青い皮のズボンを履いていた。
 頼りなさ気な印象だったけど、その人は四足竜の運転手なのだそうだ。
 運転手に屈強な身体はいらないといったところかな。

「そろそろ私達も寝ますか?」
「あ、はい!」

 いっぱい寝れるのは大歓迎ですとも!
 私は喜び勇んでテントへ入った。けど、……ちょっと待って。

 テントの中は、かなり狭い。人が二人横になったら、もうギュウギュウになってしまうくらい。
 この狭いテントの中で風間さんと二人きりですか!?
 そりゃあ、何度か一緒に寝たこともありましたよ? でも、こんなに狭い空間ではなかったですよ!
 ああ、ヤバイ。
 一気に緊張してきた!

「どうしました?」

 風間さんが不思議そうに尋ねながら、テントに入ってきた。

「わ、私! 入り口側が良いなぁ! 最近トイレ近いしっ!」
「……そうですか」

 なに言ってんだ私!
 テンパってとんでもない嘘口走ったよ!
 近くないよ! 近くないんですよぉ、風間さん!
 ああ、情けなくて、泣きそう。

 そんな私とは対照的に風間さんは何事もなかったように、奥へと詰めようとする。入れ替わるときに、僅かに身体がぶつかる。
 思わず互いの腕を掴んだ。
 真正面から風間さんを見据える。
 とても、近い距離。

「失礼」

 にこりと笑まれた笑みが、思ったよりもやわらかく、あたたかかった。進行方向に振り返る風間さんの髪が、僅かに私の頬に触れた。
 ドキっと心臓が跳ねた。
 さわやかな香りが洟をくすぐる。
 風間さんの、匂い……って、ステキな匂い。ドキドキしちゃ――って、しなぁあい! ドキドキしちゃダメッ!
 ときめいてたら、また眠れなくなっちゃうよぉ!
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