恋の駆け引き~イケメンDr.は新人秘書を手放せない~
予定の時間より2時間以上早く自宅を出て、連れてこられたのはブティック。

そういえば、以前ここで夏物を大量に買ってもらった。
と言うことは・・・

「すまないけれど、この子にパーティー用の服を選んでやって。ついでに、秋冬物も見繕って」
やっぱり。

さあどうぞと、綺麗なお姉さんが私を店の奧に案内しようとしている。
でも、
私は入口から動かない。

「どうした?」
ボスが不思議そうに見る。

「困るんです」
奥歯をかみしめながら、必死に涙をこらえた。

新人秘書の私がこんな高級ブランドの服を着ていると、先輩達は黙っていない。
「一体誰に買ってもらったの?」
「変なアルバイトでもしているんじゃないでしょうね」
「ほんと、今頃の若い子は何をしてるんだかわかったものじゃない」

ボスや課長がいないときには面と向かって言ってくる。

これ以上、いじめられたくはない。

「あら、泣いたらダメですよ。せっかくの綺麗なお顔が台無しです」
店の奥から出てきた年配の女性。

「うちの店は高くて派手な服ばかりじゃありません。お嬢さんに気に入ってもらえるようなシンプルで着やすい品もありますから、どうぞ」
まるで、私の気持ちを見透かしたように奥の方からワンピースを数着出してきた。

ああ、確かに。
まず値札を見るなんて貧乏くさいけれど、私のお給料でも手が届くお値段。

「良かったら、袖を通してみてください」
「はい」

ノースリーブで、レース素材、色は・・・暖かなオレンジ。
うーん、かわいい。

「良くお似合いです」
「ありがとうございます」
これなら、着れる。

「これでいいな。行くぞ」
いつの間にか支払いを済ませたボスは、再び私の腕を取ると店を出て行った。
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