追放された悪役令嬢ですが、モフモフ付き!?スローライフはじめました

 ……よし、アイリーンのところに戻ろう! 降り注ぐ雨を体に受けながら、俺の中から迷いが消えた。
 俺は全速力で来た道を戻った。
「……なぁばあさん、今そこに白いでっけぇ猛獣がいなかったか? 三日前の雨降りに、お向かいのター坊も見たって言ってたろ。それじゃねぇか?」
「じいさん、なに寝ぼけたこと言ってんだ。ター坊は、大人ば驚かしたくて言ってるだけだ。……いや、じいさんが白っぽく見えたんだったら、もしかしたら白内障が進んじまったのかもしれねえ。明日、目医者さ行った方がいいな」
「そ、そうだな。明日は朝一番で目医者に行ってくる」
 俺が鼻先を店へと向ける直前、肩寄せ合ってひとつの傘をさす老夫婦を見たような気もしたが、アイリーンの事で頭がいっぱいの俺に、そんな事を気にする余裕はなかった。

 俺が先ほどまで定位置としていた巨木に戻った時、既に客の男はおらず、アイリーンは店に一人だった。
 調理の技術向上に余念のないアイリーンは厨房に立ち、真剣な様子で何かを掻き混ぜていた。

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