偽恋人からはじまる本気恋愛!~甘美な罠に溺れて~
「水城さん……?」

「うーん、川野って、俺の記憶違いじゃなければ……下の名前はもしかして“健太”か?』

「え? ええ、川野さんも水城さんのことを知ってたみたいで……。それに――」

今日は大事なプレゼンの日だった。けれど、こちらの都合でキャンセルすることになってしまったことを、水城さんの立場を考えると黙っているわけにはいかなかった。

「川野さん、今日、パリメラ系列の新商品のプレゼンだったみたいなんです」

『なんだって?』

水城さんの驚いた顔が目に浮かぶ。電話の向こうで『そうか……』と小さく呟くと、水城さんは言った。

『その件、ちょっと俺に任せてくれないか? これじゃ、川野君に申し訳が立たない。ああ、悪い、もう時間だ。一旦切るぞ』

「あ、はい、気を付けて帰ってきてくださいね」

忙しなく通話が切れる。

窓の外を見ると真夏の日差しがじりじりと照りつけ、この景色の遥か遠くの彼に想いを馳せた。
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