ポンコツ女子、異世界でのんびり仕立屋はじめます
「海外の映画スターだったみたいね。……どうしたの、桜井さん」

「店長! 心臓が痛いので、早めに休憩いただいてもいいですか!」

「い、いいけど。大丈夫? 顔も赤いわよ」

「大丈夫です、休憩行ってきます!」

 さっきの女の子たちが来た方角を、ひたすら走る。道行く人たちがみんな興奮して色めきたっている。

 まさか。まさか。

 ショッピングモールの長い通路を走っていると、視線の先になつかしい後ろ姿が見えた。

 癖のないまっすぐな黒い髪。長身に似合う、ブルーグレーのフロックコート。やたら姿勢のいい、きびきびとした歩き方。

 あれは、間違いなく――。

「アッシュさん!!」

 私が大声で呼びかけると、その人は声の主を探すように振り向いた。

「……ケイト!」

 アッシュを囲むように集まっていた人波をかき分け、私のもとに走ってきてくれる。

 ぎゅう、と抱き締められると、周りから「きゃーっ」という歓声があがるのがわかった。

「会いたかった。ずいぶん探した」

 少しシトラスの混じったアッシュの匂いを、胸いっぱいに吸い込む。

 この声も、体温も、抱き締める腕の力強さも、私が会いたかったアッシュそのものだ。
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