ポンコツ女子、異世界でのんびり仕立屋はじめます
「アッシュさん、どうしてここへ?」

 広い胸に顔をうずめたまま、尋ねる。

「ケイトがいる場所に、と注文をつけて転送してもらったのだが、王宮よりも広い建物に出て驚いた。兵士らしき服装の者にケイトのことを聞いても知らないと言うし」

 それはたぶん、ショッピングモールの警備員さんだろうなあ。急にこんな美形に人探しを頼まれて驚いただろうなあ、としみじみ考えてしまった。

 いやいや、問題はそこではない。

「そうじゃなくて、まだ一年経っていないのに」

 一年経たないと、魔力が貯まらなくて転送魔法が使えないんじゃなかったっけ。

「会いたくて我慢ができなかったから、多めに金を積んで、エルフに無茶をきいてもらった」

 子どもみたいに言うアッシュに、思わず笑ってしまった。

「ここじゃ目立ちすぎるから、喫茶店かどこかで待っていてもらえますか? 私、夕方まで仕事があるんです」

「どこがケイトの職場だ? 婚約者として上司に挨拶しなければ」

「ええっ?」

 私の職場が見たい、とアッシュがきかなかったので、しぶしぶ連れて行って店長に紹介した。

 店長は案の定、目を見開いて口をあんぐり開けていた。休憩時間が終わったあと質問責めにされたのは、だいたい予想どおり。
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