幼い私は…美人な姉の彼氏の友達の友達に恋をした

19、要の告白



 ホテルには着いた。

 携帯のメッセージだけでいきよいよく家を出た。駄目もとでシャルロットには『行きます!』とだけメッセージを入れたが返信はない。

 陸が来たところで状況は変わらないし、そもそも五つ星ホテルに入る理由がなく、スタッフに止められるのがオチだ。


「どうしよう…注意されたら出て行ったらいいよね!」

 自分を奮い立たせ、普段では絶対に入ることはない豪華絢爛なホテルに足を踏み入れた。

 どう見ても年若い陸が、このホテルに用事があるのか?という態度を取られると思っていた陸だが、全く違っていた。


「失礼致します。五十嵐 陸様でございますか?」

 パリッとした燕尾服を着用し、ロマンスグレーの髪を綺麗に撫で付けた、いかにもなホテルスタッフに声をかけられ、ビクッと直立不動になった。

「はい!!」

「お早い到着、感謝致します。ご案内致します」

「は、い…」

 何故、名前を知っているのか? きっとシャルロットが話したのか? きっとそうに違いない。そう思うが、連れて行かれた場所は上ではなく下だった。

 要がいるなら、どう考えても最上階にある部屋に違いないのに案内された場所は下、エレベーターは地下五階を点滅させている。

 下でもなく地下だ。私は騙されている? まさか…と不安が押し寄せる。

 開いたエレベーターの扉。開いたエレベーターから案内された先には、一台のおそろしく車体が長い高級車。車のナンバーを即座に確認すれば、それはシャルロットの自家用車だった。

 どっと安心感が頭を支配したところで、車の助手席のドアが開き、そこから出てきたのは、ケーキバイキングのお店で出会った要の秘書だった。


「陸さん、こんばんは。以前に一度お会いは していますが、覚えていらっしゃいますか?」

「はい!こんばんは。えっと…(名前が分からない)」

「若田と申します」

「若田さん! はい、ケーキバイキングのお店で要さんと一緒にいらっしゃった秘書さん、ですよね」

「はい。この度は夜遅くにお呼びたてし、申し訳ございません。概要は龍神シャルロット様から伝えていると伺っておりますが、間違いございませんか?」

「要さんの看病ですよね? もちろん承知の上です。家を出る時、涼介さんに伝えておりますので、夜遅くなっても大丈夫です」

「では、移動致しますので、車の中に」

 何故車の中に入るのか? 授賞式はこのホテルで、今も現在行われるているはず? 疑問に思うが、言われた通りに車に乗り込むと、座席には白衣を着た医者らしき人と、グッタリと横たわった要がいた。

 息がつまる。(要…さんっ…)


 息も忘れ硬直している陸の背を、若田裕介がそっと押し車に乗れと促す。

 涙目の陸に、医者は笑っている。


「お嬢ちゃん、そんな重症患者を前にしたような顔をせんでもええよ。ただの過労じゃ過労。睡眠不足と軽い栄養失調みたいなものよ。
 デカイ図体を維持するのには、食わんといかんのに。食事をせんコヤツが悪い。何がダイエットじゃ、気持ち悪い奴じゃ」


 老獪の医者が、天下の要をこけおろしている状況に、陸は思わずポカンとしてしまう。


「過労…ほど、お仕事をしてるんですか? それにダイエットって…まさか、要さんが? スタイル抜群なのに? うん?」

 裕介と、要が倒れた理由をあらかた聞いた老獪の医者は「貴女(陸)のせいですよ」と喉まで出かかった言葉を根性で飲みこんだ。


 若田裕介が助手席に戻り、運転手と何か話している。しばらくして車は動き出した。

 医者に言われ、陸は要が寝ている逆側に座った。薄暗い車内で顔色は読めないが、とても元気一杯絶好調には見えなかった。

 しばらく走っていた車が止まり。車から出るように言われ、出た。目の前にはタワーマンションだ。最上階が遠くて見ようとすれば首が痛い。

まさか…ここは…?

 明らかに駐車場じゃない場所に車を止めて、若田裕介と医者は要を両側から担いでいる。
 そこは腕っぷし皆無の陸では手伝えない為、静かに後に続く。半分くらいは意識があるのか、要自身もゆっくりだが歩いていた。

 だいぶ離れて歩いている陸に、裕介が手招きしてくる。


「若田さん、ここって…」

「要様のご自宅ですよ」

「えっ、えっ、えー!? まさか、私、看病、ここでするんですか? 流石に赤の他人の私が、勝手に入っていいとは思えないですけど!!」

「先程、要様には話しました」

「いや、いや、いや、意識が朦朧としている人の言動は、信用しちゃいけないですよね!?」

「……あ、あぁ、もう諦めてください。年貢の納め時です。涼介さんより要様の方が絶対にいいですよ、全てにおいて。
 貴女は頑固過ぎます。世界中探しても、要様以上の男性なんて出てきませんよ」


 何の話だ?? 若田裕介の話している内容が、陸にはこれっぽっちも理解出来ない。

 タワーマンションの最上階60階に到着し、エスカレーターの扉が開く。
床はシルバーグレーの絨毯、大きなドアが左右に二つ、その左側に入っていく。

 陸は見た事もない超高層マンションに、足がすくむ。要、若田、医者らと一緒に部屋に入るのを、身体が拒否した。エレベーター前で、立ったまま思案する。

 お隣り…いやお向かいさんは、どんな人が住んでいるのか?

ドアを睨んでいた陸に、要を寝かせ終わったのか、部屋から出てきた若田は察して答えてくれる。


「向かいは要様のご両親の別宅です。本宅は郊外にあって。たまに…一年に2、3回、泊まられてますよ」

 2、3回とは。流石、龍鳳寺財閥だ。と感心している陸に若田裕介は追い討ちをかけてくる。


「このマンションも、この土地も、要様の資産の一部です。どうですか? 心は動きましたか?」

 何にどう心が動くのか? 看病するからと言って、要にとって陸が特別みたいだとは勘違いするな。と言うことか? 回りくどい。


「大丈夫ですよ、看病するだけです。間違っても襲ったりしません!!」

 分かってるぞ。と踏ん反りかえる陸に、溜め息が漏れていく。嫌、襲われるのは貴女だと。もうこのさい襲われろと若田裕介は思っていた。

 身体が拒否する陸の背中をグイグイ押しながら、中に入れた。
 医者もすでに帰り仕度。


「それでは、陸様。私共はまだ授賞式晩餐会の後始末もございますので、要様を宜しくお願い致します。
 薬は点滴と一緒に投与致しましたので、とくに飲む必要はございません。冷蔵庫の食料も好きに使ってください。トイレ、風呂もよろしければ入ってください。
 容体の変化など、何かあればお伝えした電話番号に連絡ください」

「…へ? は、はい、分かりました」


 トイレはまだしも、人様の風呂は使わない。陸は看病をしにきたのだ。間違っても遊びにきたわけではない。のに、楽しんでいってくださいみたいな、若田と医者の言動が陸には理解出来ない。

 全幅の信頼を秘書若田から受けた陸は、居心地悪くも本来の目的である看病をする為に、要の側に腰を下ろした。


「…要さん、凄い汗…水分を取らないと脱水症状になるんじゃ?」

「んっ………」

「要さん! 気づきました?」

「……り…く?」

「はいっ! 陸です。五十嵐 陸です!! しんどいかもしれないですけど、お水飲んでください」

「み…ず、あぁ」

 掠れた声が、胸に痛い。

「はい、飲めますか?」

 受け取った身体は、力が入らずペットボトルの水を下にぶちまけた。

「キャッ!! 大丈夫ですか!? 」

「…すま…ない」

「お水ですし、床は拭けばいいです。でも服は一度着替えてください。お水もかかりましたし」

「あぁ…(陸が俺の部屋に何故いる? 夢か?)…」

「要さん? 聞いてますか??」


 先程までレッドアンドブラック賞の授賞式だったはず。これは夢。久しぶりに俺は眠れたんだ。夢…なら、俺の浅ましい夢…なら…。


「…身体…が気持ち悪い、ふい…てくれない…か?」

「ふぁぁい!?」

 思わず変な声で、変な答え方をしてしまった。

「…気持ち…悪い…んだ、頼め…ない…か?」

(いや、いや、いや、ふくって。要さんの身体を私が!? 恋人を呼ぶべきじゃないかな、これ。
 どうしよう、どうしよう、要さん意識が朦朧としてるし、若田さんに電話すべき!?)

 夢だと思っている要はかなり強かった。

「少し…だけ…で、構わ…ない…。生で…触れとは、言って…ない…だろう…?」

 哀しげな表情に、陸は落ちまくる。いやもう色気が凄すぎて頭がクラクラする。

(触っていいなら、触りたいよー。いいのかな? いいか、これだけ意識が混濁してたら、忘れてしまうだろうし。私が黙っていたらいいのよね。だって、最後だから。これが本当に最後だから)


 涼介は違うと言ったが、あれほどべったりくっついていた鳥野苺。報道人は世紀末カップル、美男美女カップルだと騒いでいた。

 要だって満更でもない筈だ。本人から聞いた訳ではないが。陸とは半月ぶり。前に会ったのは陸が体調不良で寝込んでいた時、お見舞いに来てくれていたあの時以来だ。


「はい、では用意しますね。ひとまず、クッションにもたれてください」

 陸は手際よくお湯を沸かし、沸騰する前にお湯をボールに流し入れ、人肌より少し熱いくらいの湯をつくった。タオルをそれに浸し、固く絞り出来上がりだ。


「お待たせ致しました。あ…と、ぬ、脱がしますね」

「…あぁ…」

(綺麗…)

「辛かったら私にもたれかかって下さいね」

 返事はない。

 上半身を脱がせて、陸は目眩を起こす。要の絞りきった肉体美に涎が垂れそうになりながら、あらかたふいた。

 さて下半身はどうするか? めちゃくちゃ興味があるし、いやこれ以上体調を悪化させない為には全て汗を拭き、新しいパジャマに着替えた方が絶対にいい。

「要さん、あのー、下は…」

 焦がれ続けた陸が…俺を…介抱してる。素晴らしい夢は…終わらないな。いつか覚めるなら、できるとこまで…言ってみるか…、所詮…俺の妄想だ。

「下も、脱ぐから…ふいてくれ」

(ひょーーーーー!!!)

「はい…」

 手伝いながら下も脱がす。何を思ったのか、要はスラックスと下着を一緒に脱いだ。

(ギャァァァァァーーー、イヤァァァァーーー、見えてますから!!! 大事なところが、ワァァァーーー!!)

 大パニックの陸に、要は静かだ。

 慌てふためく陸は消えない。まだ、夢は覚めない…な。

「…はや…く」

 何故せかす? 陸は恥ずかしいのを押し殺し、見過ぎないようにと自分に言い聞かせながら、ゆっくりと濡れタオルを肌にあてていく。



「痛くはないですか?」

「…気持ち…いい、続け…て…くれ」


 ふいた、ふききった。変な汗をかいた。


「気持ち良かった…」

「要さん?」


(これはどうせ、夢だ…)

なら、言ってしまいたい。ずっと…思っていたと。夢でなら…夢くらいは告白しても構わないだろう?要は意味不明な自信を持った。

 生まれて初めての告白。夢であっても顔を見ながらは無理だと、夢でまで意気地なしの己に笑えてくる。

 真下を見ながら笑う。

「くくっ」

 笑った要に陸は反応する?

「要さん?」

 顔は見ずに陸の膨らんだ大きな胸を見ながら話す。


「なぁ…、涼介…を好きで構わない…。ずっと…ずっと…涼介を好きで…構わない…」

「涼介さん? えっ?」

「…陸は、絵が好きだろう…。世界には…たくさんあるぞ。絵画も…彫刻も…なんでも見せて…やる。
 金なら…溢れるほど…ある、好きに…使ったらいい…。
 彼氏…優一だった…か。奴…には…無理だろう…? 学生だし…な。俺になら…でき…る」


「要さん? 意味がわからない…ですけど。何を?」


 今、要は真っ裸なのだ。はやく服を着て欲しい。目のやり場に困るのだ。

 なんとも言えない顔をつくる陸の肩口に、要は頭を置く。要の視界から陸が消えて、やっと言える。

 これが本当に最初で最後の告白だ。


「心は…全部…涼介に、やる。だから…身体…を身体は、俺にくれないか?
 俺とは、嫌なら…キスも…セックスも…しなくて…構わない。
 慰めて…欲しい時…だけ、俺を…涼介だと思って…使えばいい。俺からは、絶対に、しない」

「要さん!? まって、何を言って!?」


 饒舌な要に、台詞の内容に陸の脳はついていけない。

「陸。ずっと…好きなんだ、涼介と海のセックスを見て、泣いて…いた、陸を見て…。
 俺は…恋に、気づいた。スカートを涙で濡らして、涼介…を想い泣いている…姿を見て…俺は自分の…恋に…気づいた…」


 息が詰まる。息が出来ない。

「要…さん…」

「好きなんだ…陸……愛して…る…」


 言い逃げか??

 熱で朦朧した脳は、身体をささえれなく。告白してスッキリしたのだろう要の身体は傾き倒れる。

 陸よりだいぶ大きな身体だ。意識がない要を支えれず、一緒にベッドに崩れ落ちる。

 抱き合う姿でベッドに倒れた二人。

「もう!! 分かんないですから、分からないですよ。回りくどい!! そんな事、要さんの馬鹿…」

 嬉しいはずが涙が溢れ止まらない。裸で覆い被さる要をぎゅーーーと抱きしめる。

 ここまで言わせてトンズラはよくない。よくないが現在の要は裸。見事な裸体だから、見ていいならいつまでも見ていよう。だが体調不良なのだ。

 笑いながら泣くという不思議な現象に悩まされながら、陸は要の身体の下から這い出る。

 近くに畳んで置いてあった、下着、パジャマを、悪戦苦闘しながら要の見事な裸体に着せていく。火事場の馬鹿力だ。

 大いに、そりゃもうたっぷりとベタベタ魅惑の身体を触りながら着用させた。水と汗で濡れたシーツは剥がし、ベッドシーツが濡れてないか確認した後、要の身体をベッドの真ん中に横たえさせる。

 よっぽど辛いのか、服を着せてる間も、意識があるようでない。完了した後は、死んだように眠っている要の姿に胸が張ちきれそうになる。


「元気になったら、ちゃんと返事はしますから! でも…一応。
 要さん! 私もずっと要さんが好きです。大好きです。愛してます!!」

(キスもエッチも、宜しくお願い致します)


 流石に口には出せないが、心の奥底からお願いする。実は楽しみで仕方ない。

 隣に座り、要の綺麗な身体を反芻しながら、下着が湿っているのが分かりモジモジと太ももを擦り合わせる。


「は、恥ずかしい…」

 ベッドに突っ伏して、先程の奇跡の時間を思い返す。そして、陸もウトウトとベッドの淵にもたれながら、看病をするが、規則正しい要の寝息が心地よく眠気が襲ってくる。

 寝てはダメと思いながら瞳は緩やかに、閉じていった。


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