密偵をクビになったので元主のため料理人を目指します!
「ジオンは、まあ、ね……」

 肯定されたサリアは歯をくいしばる。ジオンが先駆けたせいで貴重な一枠が埋まったとしたら呪おう。

「サリア、頼むからそう人を呪いそうな目で凝視するのは止めてくれ」

「は? 何言ってるんですか? 呪うに決まってますよね? 自分のしでかしたことを忘れたんですか!?」

 ジオンは知っている。どれほどサリアがルイスを想っているのかを。
 重ねて言おう。それなのにこの仕打ちであると。

 これはない。ないったらない!

「主様。もしも護衛の枠が一つだというのなら、私にはジオンを倒してでも奪い取る覚悟があります」

 言いながら拳を構えた。困らせている自覚はあるけれど、サリアも引き下がれはしない。

 確かにジオンには及ばないだろう。しかしサリアとて戦うことは出来る。身を守るすべはジオンから教わった。敬愛する主のためならば、この身が傷つこうと、手を汚しても構わない。

 そう、たとえばジオンの弱みを握って脅すという汚い手を使ってでも……

「ありがとう、サリア」

「はっ!」

 サリアは目を覚ました。ルイスの言葉はまるで邪な考えを遮るかのようだった。平気で汚い手を使おうとしたサリアにとって、さながら天使の囁きだ。
< 15 / 108 >

この作品をシェア

pagetop